『バーチャルさんはみている』の話

あけましておめでとうございます。大晦日にでろーんさんとことねさんのヘイブン歌ってみた動画が投稿されて感激した客野です。まあ観たのは年明けてからなんですが。ナナシス、いつの間にかこんなに大きくなって…

 

ヘイブン歌ってみたURL→

https://youtu.be/N8K73cMLbAg

 

さてさて、2019年といえば『バーチャルさんはみている』がとうとう放送スタートされました。絶賛ハードディスクぶっ壊れ中なのでニコニコで観たのですが、いやもう素晴らしかったですね

圧倒的内輪ノリ、なんか的を外したギャグ、滲み出る手作り感…まさしくこれが私が求めていたものでした。いや、言い間違いでも皮肉でも強がりでもなく、本当にこれが観たかったのです。

もちろん、かなりブーイングがあることも把握しています。1番共感できた感想が「キツい」。これは普段Vtuberを観ていて、今回の放送を楽しみにしていた人にも見られたコメントです。おそらく、彼ら彼女らはいつも大好きなVtuberの動画を繰り返し観ているのでしょう。コメントをしたり、時にはスパチャをしたこともあるのかもしれません。でも、周囲の人に布教しようとしてもなかなか伝わらない。アニメとVtuberって近いようで遠いですもんね。だから、今回のアニメ化を絶好の好機と捉え、「絶対に面白いから、1話だけでも絶対に観て!」とか言っちゃったのかもしれません。でもいざ放送を迎えてみると衝撃の展開で、友人からは「お前の好きなVtuberってこんな感じなの?」という戸惑いの声。「ちがう…ちがうんだああああ」と叫びたくなってしまう気持ちは分かります。

 

でも、実は、私は、なんとなくこういう闇鍋的内輪ノリ作品になるんだろうなあ(ていうかなってほしいなあ)と思っていました。そのきっかけがお正月のバーチャルのど自慢です。

 

バーチャルのど自慢の告知→ http://www6.nhk.or.jp/anime/topics/detail.html?i=5195

 

私事になりますが、私は年末年始は、BSのアニソンプレミアム紅白歌合戦でかなり楽しんでいました。豪華な出演者、抜群のパフォーマンス、熱い情熱、等々。そのクオリティはまさに特番にふさわしく、アニソンプレミアムの最後の「アニソン風「蛍の光」ではなんとも言いがたい感動さえ覚えました。いや流石にそれは嘘ですけど。なんだよアニソン風「蛍の光」って。誰が考えたんだよ。

 

まあそれはともかく、年末年始の歌番組の力の入りようというのは読者の皆様もよくご存知のことと思います。

私はその流れでバーチャルのど自慢を年明け、1月2日に観たわけです。

 

観てびっっっっくりしました。

なんだこのぬるさは。

 

詳細に記述する能力が無いので、私がその時感じた感想を言いますが、第一印象は、これ、「本当に」のど自慢じゃんでした。

のど自慢は、公式サイトによると、こんな紹介がされています。

 

NHKのど自慢は昭和21年に「のど自慢素人音楽会」としてスタートしました。毎週日曜日、原則生放送でお送りしています。ハガキで選出されたみなさんが前日の土曜日に予選会に挑み、20組の本選出場者が決定しています。
番組のモットーは 「明るく!楽しく!元気よく」。
中学生以上であれば誰でも応募できます(2015年4月以降)。以上、公式サイトより URL→ http://www6.nhk.or.jp/nodojiman/sp/about/index.html

まあ要するに、アマチュアが、「明るく!楽しく!元気よく」歌う番組です。皆さんも、お昼ご飯を食べながら「あーこの人うまいなー」「え、これで出れるんなら俺も出れるんじゃね?」「今のが鐘ふたつは無いでしょ」とか観てたことだと思います。

ここで重要なのは、基本的にここで歌うのは素人(この言葉が強いなら歌うのが本職ではない人)だということです。そこで求められるのは、プロとしての圧巻のパフォーマンスではなく、どちらかというと我々視聴者に親しみやすい、身近さを感じさせてくれるようなパフォーマンスです。

でも、私は、「バーチャルのど自慢」が開かれると知った時、「圧倒的なパフォーマンス」の方を予想していました。実際、YuNiさん(彼女はVsingerなのでここでは「本職」と言ってよいでしょう)をはじめ、そういうパフォーマンスをした人もいました。

しかし、よく考えてみると、Vtuberのほとんどの方は別に歌うプロではないわけで、歌唱力ではあの中でもトップクラスの道明寺ここあさん(合格の鐘をもらった1人です)だって、コンセプト(便利な言葉…)としては普通の高校生ですからね。

それに、これがより重要な点ですが、ぶっちゃけみんながみんな(アニソンプレミアムや紅白歌合戦に出るアーティストと肩を並べるレベルで)歌が上手いわけではないですよね。もちろん、今回はかなり上手い方を選んで呼んできたのだと思います(だから小田切アナも「こんなに合格者が出るのは通常ののど自慢ではありえない」と言っていたのだと思います)が、それでもやはり、マイク1本で勝負となるとなかなか調子が悪い。

すげえすげえと夢中になって観てきたものの、そういやVtuberというのはまだまだまだまだ若いコンテンツだったなあと、この時に改めて思いました。

でも、それと同時に、このことを考えると、「のど自慢」というのはなんとうまい折り合いの付け方だと唸りました。

変な話、私(たち、といってもいいでしょうか)はVtuberのオタクなので、どれだけ外野が「そんなに上手くないじゃんw」「ガワが可愛いだけでしょ」と言われても、はっきり言ってどうでもいいのです。重要なのは、推しが身近であること推しが楽しそうであること。そしてこれは、のど自慢のモットーとそんなに離れてないんじゃないでしょうか。

思えば、Vtuber(主に親分ですが…)は、これまでバンピーのコンテンツでは、「物珍しいもの」として扱われてきました。それが悪いとはいいません。実際物珍しいんだろうと思います。でも、だからこそ、それを全面に出されるとこっちとしてはいたたまれない気分になるわけです(声優アイドルが地上波の音楽番組に出た時の話はしてないです)。

だったらもういっそのこと、こっち(好きな人)だけが楽しめる空間を作ればいいんじゃないか。私はそう常々思っていました。Vtuberはまだまだ若い(2回目)んだから、まずは地固めをする方がいい、もしくは、地固めをしようとする試みが多少はあってもいい(その境目を微妙に狙っていく試みのうちの1つがくじじゅうじだと思いますが)と思っていました。

 

でも、それは難しいだろうなとも思っていました。これだけ「最新の技術」「トレンド」として位置付けされてしまったら、どうしても「社会的意義」みたいなものを求められる。内に閉じこもるなんていうのは許されないんだろうなと。

 

しかし、だからこそ、私は最初驚いたのです。本当に意外だったから。そして驚きのあとは、「流石NHK!」という気持ちになりました。なんかいつかの誰かのTwitterの投稿で見ましたが、NHKは平均人に合致したものより、少数のオタクの心をくすぐるのがうまいと思います。

司会の小田切アナ、謎(?)の役回りのグランドマザーもいい具合にVtuberの面々と接していて、観ていてとても安心しました。すごく満足しました。

 

 

で、本題なのですが、私は今回の『バーチャルさんはみている』も、こういうぬるい、オタクにだけ通じて、安心して観られる感じのものだったらいいなと思っていました。それがドンピシャできたわけですから、その嬉しさたるや。

詳しく内容を見ていきましょう。

まず先に、今回微妙だった点を先に言っておきます。私も別に言いたいことが無いわけではないです。

今回気になったのは、2点あります。まず、ゲーム部の面々です。「演劇部」と称され、その「過激」な「日常」動画と確かなゲームの腕前が評価されており、私も大好きなのですが、やはり得意の過激ネタとゲームの固有名が封じられると痛いですね(わかりやすく言うと、弱酸性ミリオンアーサーがテレビ放映された時みたいな話です)。オープニング後のトップバッターということで期待が大きかっただけに、やや残念でした。今後に期待したいところです。

2点目に気になったのが、やっぱりメイン6人は多くね!?ということです。会話がすごくテンポよく進むのでほとんど気にならないのですが、最後のお便りのコーナーのグダグダ加減だけは、うーん、なんとも言えませんね。そのグダりぐあいも含めてVtuberだろと言われると返す言葉もないですし、今後人数が減ることも考えにくいですから、これはこちらが慣れていくほかなさそうです。

 

さて、批判めいたことはここまで。ここからはひたすら「ここ好き」ポイントを言っていきます。

①ケリンとヒメヒナ 夢の共演

ぶちとばでお馴染みケリンさんといえば、癖の強い2D画が特徴ですが、いっぽう、ヒメヒナはぬるっぬる動く3D。この二組が邂逅した瞬間は、普通に面白かったです。サプライズでケリン3D化かなと思っていたのですが、無理に合わせるのではなく、違いを活かして新たな表現方法で描くっていうのはいいなあと思いました。

 

②ミライアカリさん大活躍

昨年大晦日に待望のオリジナル曲を発表した(できればクールな曲も今後聞いてみたいですというのは私の願望です)我らが四天王の一角ミライアカリさんですが、勢いそのままに、『バーチャルさんはみている』でも大活躍。個人的にはヒメさんとお悩み相談するところが気に入っています。

2人は既にコラボ動画がある(ヒメヒナで出てる)のですが、この時は奥行が無かったので、それがあるだけでちょっと感動でした。

ヒメヒナ×ミライアカリhttps://youtu.be/vMsJzAQcac8

ちんちくりんのヒメと手足の長いアカリおねーさんは、どちらも凄く激しく動き回るので、観ていて飽きません。イケボ、別人格(アカリさんにはココロヤミという別人格が元々あります)など、随所で光る技やネタがとても良かったです。多彩な方だなという感を一層強くしました。

 

③剣ちゃん登場

剣ちゃんこと剣持刀也さんが、委員長の2択クイズで登場。Bの選択肢がかの有名な「わたくしで隠さなきゃ」なのはもちろんですが、たぶんAの方(「親が酔って乱入」)も委員長と剣ちゃんの「親子関係」ネタだと思うんですよね。

「親子関係ってなんだよ」という方へ、例えば親子ラップ対決

 https://youtu.be/FfjZmhu3GQY

これも面白いところで、たぶん剣ちゃんはそれを理解したうえでAを選んだと思う(根拠は無いですが、彼は頭がいいので)のですが、結局それは不正解で、しかもなぜBが答えなのかを解説されず終わってしまうという、なんともモヤッとした終わりになりました。この茶番はどういうことなんだろうと私も考えていたのですが、もしかするとこのモヤッと感を出したかったのかなと思いました。そしてそう考えると、『バーチャルさんはみている』は、私が安心して観ていた「バーチャルのど自慢」からも少し変化しつつあるのかなと思ったりしました。

 

どういうことかというと、既に言ったように、「バーチャルのど自慢」はVtuberのオタクが安心して観られる空間だったわけです。でも、それは内に閉じこもってしまうことの裏返しでもあります。これも言いました。

でも、『バーチャルさんはみている』は、オタクの期待すら透かしていこうとしている感があります。初見どころかビギナーくらいは余裕で振り落とすネタを乱発し、初回からフルスロットル。ネタ自体はそれほどコアなものは無かったと思うのですが(私が気づいていないだけかもしれません)、「Vtuberを追っている」といってもシロちゃんだけとかにじさんじだけとかいう人がさして珍しくない(言うまでもないかもしれませんが、四天王やヒメヒナは動画中心、にじさんじは生配信中心というふうに、「Vtuber」とひとくちにいっても、コンテンツの提供のスタイルが色々違います)今では、浅く広く知っているというのはそこそこ難しい気がします。「内輪ノリだ」と批判されますが、「内輪」であるはずのオタクも把握しきれていない部分があって、むしろそれを利用しているのではないかと私は思いました。そしてそれは、Vtuberを単に世間の見世物にするのでもなく、オタクの嗜好品にとどめるのでもなく、その視線からずらしてディープなところへと潜っていき、Vtuberの内側から限界を突破していく方法だったのではないでしょうか。

「だったのではないでしょうか」と言ったもののまだ1話ですし、まだまだ分からないことは沢山あります。でも、「ウケ狙いが失敗した」にしてはあまりに不安定で、その意図するところがまるでわからないことが(オタクから観ても)あまりに多い。恥ずかしい(共感性羞恥)というか、シンプルに分からない。その分からなさ、闇鍋っぽさを楽しめる人には、普通におすすめできるんじゃないかなあと思ったりしました。みんな可愛いしね!

俺ガイルの新刊がやっと出てうれしい

誰が彼らの関係を決めるのか(俺ガイル13巻を読みました)(ネタバレあるよ)

 1枚ページをめくって目次を開くと,その隣には懐かしい青い線と勢ぞろいしたキャラクターたち。1巻を読んだ時の記憶がよみがえり,ああ,本当に終わるんだなあと,とりあえず最初の感想はそういうものでした。
 12巻の時も相当待たされましたが,今回の13巻も待ちましたね…本当なら13巻は先月出ていて,今月は14巻の予定だったということを考えると,また次もだいぶ待たされそうな気がします。ただ,別に嫌ではないですね。というよりむしろ,終わってほしくないので,5年くらい寝かせてもらった方がいいかもしれません。

 冗談はさておき,劇的な引きを見せた12巻に引き続き,13巻もまた,読者をやきもきさせる終わり方をして,14巻に続く,という感じです。舞台は例によってプラムを巡るあれこれ。とはいえ,「正直,プロム自体は割りとどうでもいい」(p.164)あたりまで読むと,「またいつものあれか」というお決まりの展開です。雪乃と「対立」という形をとって懸命に計画をするのですが,最終的には,いろいろみんなに手伝ってもらった計画はあっさりと雪ノ下母に見抜かれてしまい,八幡が,彼自身の機転で乗り切るという結末を迎えます。雪乃はそうなることを予想していました。それは「信頼」であり同時に「依存」でもあると,彼女は語ります。
 八幡は,「そうだとしても,勝ちは勝ちだ」とフォロー(まあ,彼にとってそれはフォローというより自分のための言葉なのでしょうが)をします。この辺りのくだりはこれまで何度も何度も繰り返されてきたので,私としても気が重くなります。結局のところ,八幡がどれだけ「雪乃はちゃんと自分で頑張っている,依存じゃない」と言ったとしても,結果として,雪乃の困難を八幡が解決すること,そして雪乃がそれに苦しむという構図は何一つ変わりません。これだったら,ちゃんと真っ向から対立した方がよかったでしょう。まあ,それができなかったというのがミソではあるわけですが。
 雪乃は結局,自分たちの関係はやはり「まがいもの」だったのだと,自ら語るに至ります。だから終わらせたいといい,八幡もそれを受け入れる……

 そこで13巻は終わるのですが,このドロドロとした負の連鎖の原因は,やっぱり「相手のことを思う」ということにあるような気がしていて(それは,いろはや結衣が理解できないと語るレベルより更に深いところにありそうです),それに八幡も雪乃も気づいていないあたりがなんとももどかしいですね。「ダブルバインド」「誤前提提示」というのが今回ちょこちょこ出てきますが,これもそれに近い話である感じがします。「相手のことを思って行動する」とそれは「依存」であり,「依存」であることをやめるとそれは関係の終わりになってしまう。彼らには何か大きな前提があって,それが見えていないか,もしくは見えたとしてもその前提を取り外せないかで,結果として翻弄されている。八幡自身もある程度それはわかっているようではあるのですが,それを壊すつもりはないようです。
雪乃を助ける方法が「対立」しかないというのは,まあいいでしょう。なるほど確かに,ダブルバインドを越えるために,いっけん助けにはならなさそうなやり方で,直接的にではなく,間接的なやり方で雪乃自身の解決をサポートする。結果として失敗したわけですが,筋は悪くない。
 でも,その行動の動機が「男の意地」とか「責任」という,八幡自身にとってはあまり積極的とはいえないものであるため,結局,「助け」終わったと雪乃に言われしまえば,共依存を避けるためにも,そのあとに関係を持続させる理由はなくなってしまう。こんなに想い合っているのにも関わらず。八幡の「本当の」動機がどこにあるのかというのは,結局明らかになりませんでした。次まで引っ張るのでしょうね…胃が痛いです。
 彼らが,全く言葉というものを重んじなければ,あるいは結衣のように,あえてそれに重きを置かないようにすれば,こんなに面倒なことにはならなかったでしょう。陽乃さんに,自分の心の痛さを根拠にして,共依存ではないと主張できたでしょう。
 あるいは彼女たちがもっともっと聡ければ,自分がどういう状況にいるかをもっと客観的に捉えられれば,(正しい意味で)もっと論理的に問題点を把握して,関係を築けたでしょう。
 でも,彼らはちょうどその中間にいる。一生懸命考えていて,論理的には筋が通っているようでいて,実はまだまだ勉強不足だから,よけいな知恵のせいで苦しむ。でも,直観に全てをゆだねることへのためらいは大きい。高二病っぽくていいですね。私にもそんな時代がありました。というか,今なおその中にいます。だからこそ,「本物が欲しい」という「言葉」が「響いて」くるのかもしれないです。
 さて,こんな八幡たちではありますが,全くの進歩が無いわけでもありません。陽乃さんとの話し合いの場面の,「それを言う相手はあなたじゃない」(p.325)あたりはしびれました。葉山には「男の意地」なんて茶化したところをみると,「共依存」というラベルを張り付けてきた陽乃さんへの牽制というか反発でしょう。
陽乃さんは以前からラスボス感満載だったわけですが,今回「本」が出てきたことで,それがいっそう高まりましたね。葉山は,雪乃への陽乃の態度に特別な意味を見ているし,そういう部分が無いわけではないのでしょうが,そこに収まりきらないんだろうなあという気もします。彼女は本物が「欲しい」というより「見たい」らしいのですが,その観察対象にされた人にとってはいい迷惑ですね。頭が切れるから,下されるディレクションがいちいちもっともらしいのが余計に腹立たしい。部外者に勝手に意味づけをされて,そのうえ勝手に評価までされることへの嫌悪感。八幡の怒り(というほど強い感情かはわかりませんが)は理解できます。
海老名さんに対するモノローグもそれに近いものがありますね。自分たちのやっていることを「ペシミズム」とみなされることを,八幡は断固として否定する。海老名さんは,八幡たちがやっていることは露悪的なものにしか見えない(し,そのことを理解していないとすれば愚かしいと考える)のですが,八幡にとってそれは,愚直で真摯な積み重ねでしかないわけです。この辺は,「本物が欲しい」あたりで終わったことかなと思っていたので,ここで繰り返されたのはちょっと驚きでした。
 でも,ここでこの「すれ違い」がもう1度示されることで,八幡の「本物」をめざす探究が,いっそうクリアに見えてきたような気がします。同じ穴の狢(海老名さん)も,頼りになる導き手(葉山)も,裁定者気取りの観察者(陽乃さん)も,彼らの関係の中には入ることができないということが,改めて分かります。たくさんの魅力あるキャラクターに囲まれながらも,俺ガイルは,やはり断固として,比企谷八幡雪ノ下雪乃由比ヶ浜結衣の物語なのだなあと思いました。最終巻はこの3人だけ登場させて,14.5巻でアフターストーリーやるとかじゃダメですかね…(懇願)
 最終巻はどういう展開になるのか,アフターストーリー的なものをやるのか,そしてアニメは3期をやるのか(ストック的には激情版とかの方がいいんでしょうか),色々と期待は尽きませんが,とりあえず13巻はこんなところで終わりたいと思います。

玉縄よくがんばった!!!

マツリさんお誕生日おめでとうございます

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(心がまだ武道館なので、武道館の思い出もちょこちょこと…)

三森マツリさん、お誕生日おめでとうございます。(とりあえず)今年も貴方の記念となる日を祝えた事がとても嬉しいです。今は何をしているのでしょうか。クラッシュのジャケ絵はもう出たのでしょうか(とっくに出てる気がする…)。また貴方に会えることを、とても、とても楽しみにしています。
早いもので、メモリアルライブを終えてナナシスを断って、もう2ヶ月……………




え、まだ2ヶ月なんですか?






こんにちは。ナナシス関係の話をするのは媒体関係なく久しぶりです。客のです。
いやーーーーーーまだナナシス断ちをして2ヶ月なんですね、、、、、、掛け値無しで2年くらい触ってない気がします。マツリさんがガチ幼女からプロ幼女になるくらいの月日は経ってしまった気がします。

マツリさん年表? #三森マツリ生誕祭2017twitter.com


去年はけっこう頑張ってこんなの作りましたからね。今年の更新ができないのが残念です。

さてさて、2034年で21歳ということは、今年で5-6歳ですか。そろそろ小学校に上がる歳なわけですか。年月が経つのは早いですね…来年こそは「マツリさんの今年1年はこんな年だったなあ」と言えるように私も頑張りたいです。

ナナシス関係の情報をシャットアウトしているといっても、色々話は不思議と入ってくるもので、ミミさんとミワコさんとシサラさんとチャチャ様という、個人的に激アツな4人組ユニットができたと聞きました。いやあ、アツすぎる……チャチャ様とシサラさんの麗しさにはかねてより心を奪われていましたし、成人組の残り2人がユニットがデビューっていうのはマツリさん推しとしてとても嬉しいです。エピソードでマツリさんが2人に「ユニットはやらないの?」って訊いていたことがあったんですよ。2人がどういうきっかけでユニットを始めようと思ったのか分かりませんが、まさかの2人ともが同じユニットなんて、感無量です。CDが出てるのかとかノベライズがあるのかとか、そのレベルで全然知らないのが凄くもどかしいです!!ていうかレスカときゅおぴとシトラスと4人組(調べてないので名前は知りません)足したらスリーセブンシスターズ上回る人数になるんですかね。感慨深い…

ユニットといえば、マツリさんたちきゅおぴのクラッシュ(綴りが分からないし調べるとメンタルやられるのでカタカナで誤魔化します)も結局は武道館で聴いたきりですね。というか、ナナシス自体、武道館の次の日から曲を1つも聴いていないのですが。いやーーー、いつかちゃんと聴けるのが楽しみ。凄くカッコよくて派手な曲でしたし、ライブ映するんだろうな。もっとも、きゅおぴは毎回ライブには強いですけども!

ライブといえば、4thのチケット争いがけっこう厳しい戦いだったみたいですね。知り合いが取れない取れないと嘆いていました。これを読んでくださっている方は取れたのでしょうか?
ただ、そういう状況を見ても分かるように、ナナシスがすそ野を順調に広げていっているのは間違いないみたいで、もし私が復帰する前に終わってしまったらどうしよう……とほんの少しだけ心配に思った私としては安心しました。アニメはいつかやるのかな。4thで発表とかあったら…と思うと胃が痛いことこの上ないです。

ナナシス断ちをしたと言ったのですが、1つだけ例外があって、メモリアルが終わった直後くらいに出た茂木さんのインタビューを読んだんです。その中で印象に残った部分があって、表現は忘れたのですが、「メモリアルのキャストは狙ってナナスタ縛りにしたわけではない」というのを暗に匂わせるような内容だったと思います(違っていたらごめんなさい)。それで私はハッとしまして、というのも、2か月前までの私は、それまでナナスタだけにしたのは何か意味があるのではないかと思っていたからです。狙ってやっていたのだと、その意味はなんなのかと一生懸命考えていたからです。

だからそれを読んだ時に、違うんだ、考えすぎだったんだ、と力がすっと抜けたような気がしました。とはいえそれは悪い意味ではなく、目からウロコがぽろっと落ちたような感覚でした。
どういうことかといいますと、それまで私は肩に力を入れてナナシスを追っていたわけです。全てには意味がある、ナナシスを徹底的に解読してやろうと意気込んでいました。もちろん、それが悪いわけではないです。そういう試み自体ある程度は必要ですし、もしそれが検討外れだったとしても、何も無い、もしくは本当の意図ではないところに意味を見出すというのは、皮肉ではなく本当に素敵なことだと思います。それは大切なことだと思います。

でも、それは凄く難しい事でもあります。ずっと注意深く見ていたら、目が疲れるし肩も凝ります。2ヶ月前にナナシスをとりあえず断って、自分がそれまでどれだけ力を入れていたのかがよく分かりました。そういう自分も、それはそれで受け入れられますけどね。
でも、いったん落ち着いてみるということができたのは、それ自体は、長い目で見れば悪いことではないのかな、と思えるようになりました。これも意味がある間隔だったのだと思えるようになりました。



嘘です。




いや、嘘ではないんですが、マツリさんやレナやムスビに会えないのはやっぱり普通に寂しいです。いとしーさーの水本ゆかりさんソロを聴きkawaii make my dayを無限ループしエロマンガ先生の紗霧ちゃんの声を聴きながら似た声をした元気なショートカットの女の子を思い出し、やがて君になるを観ながら同じように高校生をやってる真面目ちゃんはこういうところで何を思うんだろうなとか妄想したりもするわけですよ(「特別がわからない…」という台詞で悲鳴をあげてしまいました)。
あ、やがて君になるエロマンガ先生も普通にめちゃくちゃ面白いのでよろしくお願いします。エロマンガ先生は再放送です。
水本ゆかりさんもいいですよ。最近いろんな顔を見せてくれるようになって嬉しい限りです。

閑話休題
まあ、そういうのは気になるなら観るなよっていう話になる気もするのですが、観たいのは観たいんですよね、普通に声が好きなので…(葛藤)

あ、そう言えば、ナナシスとはあまり関係無いですけど、だーみなが温むすで道後温泉の大使になったのは、聞いてびっくりしました。温泉むすめはお世辞にもちゃんと追っているとは言えませんが、一応クラウドファンディングの時から名前を知っていたコンテンツの、大好きな声優さんが故郷に縁ある人になったというのは、普通に嬉しいです。そろそろ温泉むすめに真剣になるかなあ…(これ何回言ってるんだろ)
高田憂希さんもけっこう北九州帰られているみたいですね…くそぉ…イベント行きたい…
ていうか風の噂によると昨日(2018年10月8日)に凱旋イベントで北九州来ていたそうじゃないですか!!!!!!!!!???????は~~~~~~~~~~~~~~???????????くっそつらい……これが運命のいたずら…
2か月間イベント0って(イベント参加し始めてからだと)初めての経験ですし、これがあとしばらく続くってきつすぎる…ていうかこの期間が終わったら九州離れるつもりだから、それ考えると今九州のイベント行かないのって相当もったいないのでは…ええい、そういうことを考えても仕方のないことだ。


この話題続くと精神的にきついので、別の、「人間的にキツい」話をしたいと思うんですが、今年はマツリさんの誕生日を祝うために2つのものを買ったんです。1つは冒頭にあげたハーゲンなんですけど、もう1つがケーキ屋さんのお菓子です。

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私は普段はお菓子はスーパーの安いやつで、たまにスーパーでハーゲンとか買って幸せになるタイプの人間なんですけど、せっかくだしと思ってケーキ屋さんに行ったのです。ただ、行ったはいいけれど、種類が多くて迷いました。5分くらいぼーっと眺めていたら、店員さんに「プレゼントですか?」ってにこやかに訊かれて、まあそうだなって思って「はい」と返しましたら、「贈る相手は女性ですか?」と再び訊かれました。ここで微妙にためらいを感じました。まあ確かにマツリさんは女性だけど、①まず知り合いとかじゃなくて、②どちらかというとファンに近い人③そもそも違う次元に住んでいる人 を、おそらくは「異性の友人にちょっと気の利いた贈り物をしたいと思って店にやってきた冴えない男性」くらいに私を見ているこの店員さんに分かってもらうのは無理だし、それを隠して「はい、女性ですね」というのもそれはそれで店員さんに不誠実じゃなかろうかと思ったわけです。
でも、このままだと話が進まないと思って、「そうですね」と必要最低限の答えだけ返したんです。そうすると親切にその店員さんは、これこれこういうのはどうでしょうかとか、こういうのだとかわいらしいですよ、とか言ってくださって、私も最終的にはそれにしたがって、オレンジ色のマカロン(マツリさんのイメージカラー!)だけ固定にして、適当に見積もってもらいました。買い物自体はすごく満足した一方で、選んだり包んででもらう間はドキドキしっぱなしでした。店員さんにどういう関係かとか聞かれたらどうしようとか、キャラクターにうちのお菓子をなんてふざけてるのかとか言われたらどうしようとか、そもそも私は「女性用のプレゼントで…」なんて単語を発したのが初めて(哀れすぎる…)だったので、もう頭の中ぐちゃぐちゃで、お金を払ったら逃げるようにお店を出ました。


帰ってお菓子をぼんやりと眺めて自分の行動を反芻しながら、私のこの感情はどういうものなんだろう、と考えました。もちろん単純に、たとえキャラクターとはいえーー私はあまりこういう書き方は好きではなく、マツリさんがキャラクターであることと、私がマツリさんを「普通に」応援したいこと(ちなみに誤解のないよう言っておきますと、私はマツリさんガチ恋というわけではなく、親愛の情を抱いているにすぎません)は私のなかでは矛盾しません。一般論だとお考え下さい――「女性への贈り物」という単語を発するのが恥ずかしかったというのも多少ありますが、もっと大きかったのは、マツリさんへの贈り物をケーキ屋さんで買ったということへの「場違い感」でした。
この2つはどういう違いかといいますと、前者が次元(属性?)に関係なく「女性」というものに対して覚える感情なのに対して、後者は、マツリさんが「キャラクター」であるために私が抱いた感情だということです。マツリさんへの私の思いは、確実に一方通行です。(ナナシスの)ゲームという窓口を閉ざしている今は余計そうでしょう。それにも関わらず、私は彼女へのプレゼントを、「女性へのプレゼント」として、ふつうのお菓子屋さんで買ってしまった。これは、私の自己満足ではないだろうか。まあ、大なり小なり「キャラクター」のお祝いなんて自己満足でしかないわけですが、私のこれは、マツリさんのためになるわけでもなければ、むしろ店員さんを「だまして」いるわけで、悪行とさえ言えるのではないだろうか。
少し前に某キャラクターと結婚式をあげた人の記事を見て、また、キャラクターとの婚姻届けを出せるサービスの紹介を見て、私はそれらに込められた、「キャラクターとの間の恋愛感情を人並みに認めていきたい」という想いに胸打たれてやまなかった一方で、そもそもなんで「人」ではない彼ら彼女らを、「人」と同じ制度に入れ込んでしまうのだろう、と少し疑問に感じたことを思い出しました。私がお菓子をマツリさんの誕生日のために買った時に抱いた「恥」と同じ感情…と言ったら色々な方に失礼でしょうが。私の問題はもっと矮小ですので、ちょっと似ている気がしたくらいが妥当でしょうか。そもそも、私の場合は恋愛感情ではありませんので!(念押し)
だから、私がすべきなのは、あるいは私がしたいのは、私の次元に彼ら彼女を近づけるのではなく、私が彼ら彼女らの次元に近づくことなんじゃないか、その方法を一生懸命考えてみることなんじゃないかと、その時に思いました。具体的にどうするかは全く思いつかないわけですが(笑)。
あ、もちろん、お菓子はお菓子で美味しくいただきます。お菓子を買いに行ったその思いも、間違いかもしれないけれど、偽りではない……と信じたいところです。マツリさんを応援するとはどういうことなんだろうと、マツリさんを大事に思うとはどういうことなんだろうと、そんなことを2か月ぶりに思った、3回目のマツリさんの誕生日祝いでした。


はい、まあ愚痴なのか何なのかよく分かりませんが、久しぶりに色々とナナシスっぽい話を書けてすっきりしました。ゲームは連携だけしてアンインストールしましたし、公式と声優さんのツイッターアカウントをフォローしてミュート、さらに関連する言葉をワードミュートするという、徹底してるのか、そこまでやるならツイッターやめろ、というかツイッターはやってるしアニメも観てるんかいという指摘もあるかと思うのですが、まあナナシス断ち自体けじめみたいなもので、実際的な意味はあまり無い(と思ってたら意外と勉強時間が変わってくるので嬉しいような悲しいような)ので大目に見てください。早く支配人業務に戻りたいですね。このブログ記事を投げる関係で久しぶりに支配人垢に潜ってみたのですが、いやあ、色々「愉快」な話題がたくさんあるようで、いろいろ話を聞きたいし私もしたいです。少なくとも、当初若干危惧してた、冷めて離れちゃうということは、私に関してはまずないだろうと思えました。いつぞやの記事で泣けないのが辛いみたいなこと書きましたし、実際それはそれでしんどいのですが、一切触れられなくなるのはもっと辛いです。


最後になりましたが、改めて、マツリさんお誕生日おめでとうございます。ずっと大好きだし、これからも大好きでいたいです。来年こそは派手にお祝いを!

それではまた。

マツリさんについての小説(あげ直し)

「その人は、いつも小さかった」
                                   客野支配人
 

 私は、そこそこの高校を卒業して地元を離れ、そこそこの大学を卒業して地元に戻ってきた。「地元」というと田舎のようだが私の生まれは東京で、通った大学は九州である。
 「なんでわざわざ東京を離れたの?」とよく訊かれた。そのたびに「いやあ、うるさい東京を一度離れてみたかったんですよ…」と答えるものの、実際のところ特に深い理由は無かった。いくつか大学を受けたものの、合格したのがそこだけだったという話である。九州に特に思い入れはなく、偏差値がたまたま私にとって都合がよかっただけだ。ファッションに疎い私には、ファッション指定地区であるフォースはそれほど魅力的ではなかったのかもしれない。
 就職は地元のゲームセンターにした。叔父がやっている、それほど大きくはないところだ。これにも特に深い理由はない。叔父が「人が足りてなくて困っている」と誘ってくれたので行ったに過ぎない。給料はそこそこ。忙しさはそれなり。やや古めのゲームをいくつか取り扱っている点で珍しさはあるものの、基本的にはごく普通のゲームセンターだ。
 夕方から夜にかけてはお客がそこそこ入るが、昼はガラの悪いヤツが少し来る程度。なぜなら近くに警察署があるからであり、叔父は何か問題が起こるたびにそこに駆け込むからである。そんなところになんでわざわざお客も来るのだろうと思っていたが、むしろ、ルールの範囲で楽しく遊べるということで、PTAからの評判は(ゲームセンターにしては)いいらしい。いわゆる「いい子」がよく来る半面、ちょっとヤンチャな子どもの間では、「あそこは行ってはならない」ということで有名である。
 だから、どう見ても中学生くらいのなりをした女の子が月曜昼の11時というド平日の真昼間に来た時、おや、と思った。
 身長は平均的な中学生といった感じだが、見ている方が心配になるくらい華奢。服装は動きやすさを重視した軽装で、洒落っ気はあまりない。髪は短いようだがニット帽に隠れてこちらからはよく見えず、しかし少し視線を下にやるとあどけない笑顔。あの笑顔は、ゲームセンターにはどんなワクワクがあるのだろうという顔だ。ゲームセンター通いがルーティンワーク化しているのではなく、見るもの全てが珍しくて仕方がない、冒険家の顔だ。
 そう言えば、私にもあんな頃があった。中学生のころ、初めて叔父に連れられて入ったゲームセンターでのことである。
親が厳しくて、小学生の間は、たとえ叔父の店とは言え、ゲームセンターという名の施設に足を踏み入れることは許されておらず、許されたのは中学生になってからだった。中学校の入学式の帰り、渋る両親を説得し、叔父は私を自分の店に連れて行った。
 自動ドアを開けた瞬間に、今までの聞いたことがないほどの大きな音が聞こえた。そして、音がいくつも混ざり合い、混沌とした騒音を生みだしている。その有無の言わさぬ音量に圧倒され、思わず目を閉じた。数秒そのままでいて、おそるおそるゆっくり目を開ける。うちのテレビより大きな画面が視界に入ってきた。左右に目をやれば、ドラマでしか見たことのなかったボタンやレバー。世界のどこであっても、ゲームセンター以外の場所には置いていないようなものがたくさんあった。
 どこに行って何からすればいいのか分からず、呆気にとられている私に、叔父は言った。店内の音に負けないよう、少し大きな声で。
 「そうそう、俺はこの顔が好きなのよ!」
 だが、何度も通い、慣れてくるとそこはフロンティアではなくなった。いたずらで貼られたであろうシール。筐体の裏に積もった埃。手に入る景品の安っぽさ。目新しさが欠けたゲームセンターは、もはやただの虚ろなハリボテにしか見えなくなった。
 いつしか店内の騒音も、全て聞き分けられるようになっていて、混沌ではなくなった。
「暇だな、6時まで時間潰すのにゲーセン行く?」
 「んー、まあそれでいいか。」
 私は、ゲームセンターが数ある大衆娯楽施設の1つに過ぎないのだと知った。
 若い、いや、幼かった時の話である。
 はっと我に返る。昔を思い出している場合ではない。叔父はまだ気がついていないようだが、学校がやっている時間に中学生がうろついていれば、警察に突き出すのがいつものパターンだ。学校サボるやつに肩入れするつもりはないが、前から叔父の処置は厳しすぎると思っていたので、できるならばこっそり逃がしてやりたい。
 私は受付から立ち上がると、少女が遊んでいるレーシングゲームコーナーまで足を運ぶ。
 近くで見ると、改めて小さい。小学生…はさすがに違うだろうが、つい最近小学校を卒業しましたと言われたら納得できるくらいには小さい。…もしかして、そのパターンかもしれない。中学校で授業についていけず、非行に足を伸ばしている、不良のなりかけ。ならば、本格的になってしまう前に道を正してやらねばならないだろう。
しかし、彼女のプレイは初心者と思えないほど巧みだった。平均的な男子学生を基準に作られたカーシートは彼女にはかなり座りにくいだろうに、腰を浮かすなどして器用にハンドルを操っている。ショートパンツから覗く足は細いが、よく見るとしなやかな筋肉があることが分かる。中一にしてはよく慣れている。
 彼女が何者か掴みかねているまま、シートから1メートルの距離に近づくが、夢中になっている彼女は気がつかない。
仕方がないので、とりあえず、咳払いを1つしてから話しかける。
 「コラ、中学生が昼間からなに遊んでんだ?」
 「ゴール!ラップタイム新記録更新ー!」
 私が話しかけた瞬間に、彼女の車がゴールし、けたたましい電子音が流れ、重なった声がかき消された。
 ふうと一息つき、満足そうにシートから降りようとして…そこでようやく私に気がつく。にっこりと、人懐っこい笑みをこちらに向ける。
 「イエーイ、店員さん!今のプレイ見てくれてた?ちょー速かったっしょ!」
 心の底から嬉しそうな顔。少し垂れた目は大きく、口元からは八重歯が少し見え、大人になり切れていない――というかむしろ子どもっぽい、かわいらしい顔立ちをしている。だが、この子は自分の置かれている状況が分かっているのだろうか。下手したら補導、親や学校を呼ぶことになる。やはりどうも小学校を卒業したてのようだ。悪いことだとあまり思っていない。この店の噂も知らないのだろう。しかしそれは逆に言えば、更生の余地があるということだ。仕切り直しのつもりで、もう1度咳ばらいをする。
 「こほん、そんなことはどうでもいいんだよ、お嬢ちゃん。学校はどうした?サボりはこの店では警察にソッコーで突き出すことにしてるんだよ。それが嫌なら早く家に帰りなさい。」
 叔父が来ることを恐れ、少し早口で少女に伝える。なるべく声を荒立てず、しかしちゃんと恐怖を持ってもらうように。こう言えば、おそらくすぐに察するだろう。
 しかし――その後の彼女の行動は私の予想とは違っていた。
少女はまず目が点になり、次に大きくため息をつき、頬を膨らませてまた萎ませる。そして私の勧告には答えず、無言でポケットから財布を取り出す。
そして、免許証(’’’)を取り出し、私の目の前にぐいっと突きつける。
は?免許証?
「ア、タ、シ、は、に、じゅ、う、いっ、さ、い、のお!オトナですぅ!」
「はいぃ?」
叔父の存在も忘れ、思わず変な声が出た。慌てて目の前に出された免許証を手に取り、文字を追う。
「三森マツリ 運転免許証」の文字。
免許証ではお馴染みのぶすっとした不満げな顔写真は、しかし目の前にいる本人よりはまだおとなしい表情をしていた。
 目の前の彼女は眉間にぎゅっとしわを寄せている。そうとうご立腹のようだ。
 ただ…
 「嘘だっ!」
 「ハア?」
 「免許の偽造は犯罪だぞ!お前…警察に突き出してやる!」
 「だーかーらー!アタシは21歳なの!文字読めないの!?」
 「どう見ても中学生だわ!成人してるだって!?いくら免許証を巧く偽装したってなあ、見た目がこれで騙されるわけないだろう!」
 「失礼にもほどがあるわー!店長さん呼びなさいよてんちょー!」
 「ハーン、こっちは庇うつもりだったが、お前がそういうことならいいぜ、叔父さんにたっぷり怒られて泣きながら謝罪しろガキ!」
 
 「…お客様に大変失礼なことを言ってしまい、本当に申し訳ございませんでした。」
 叔父にたっぷり怒られて謝罪した(泣いてはいない)のは、私の方だった。
 少女――三森マツリは本当に成人だった。
 以前ゲームセンターも所属する商店街のイベントのバイトとして参加した三森マツリに、商店街の係としてバイトを採用した叔父は会っていたのだ。叔父も最初は年齢詐称を疑ったが、履歴書と一緒に戸籍謄本まで提出されて、信じざるを得なかったらしい(いつも同じことを疑われるそうだ)。そしてイベントの準備を一緒に行う過程で会話を重ねると、彼女から発せられたのは、確かに年を重ねた大人の言葉だった。彼女はバイトメンバーの中心になって、叔父たちを大いに助けたという。
 そしてイベントの打ち上げの飲み会で、2人は意気投合する。
 『えっ、マツリちゃん、ゲーム好きなの?うち、ゲーセンやってるからいつでもおいでよ!サービスするわ!』
 『本当ですかッ!行きます行きます絶対行きます!』
 それで今日、実際に来てみたということだった。
 「…それにも関わらず、中学生だって言われてさー、しかも免許証を偽造?アタシはそんなくだらないことしないっての!」
 「まことに申し訳なく…」
 「いやあほんと申し訳ない、マツリちゃん。この通りだ。」
 叔父と私は深々と頭を下げる。それを見て、マツリは大きくため息をつくと、不承不承と言う感じで話をする。
 「…もういいよ、アタシも慣れてるしね、マツリお姉さんはこれくらいでそんなに怒ったりしないからさ。二人とも頭上げてよ。」
 意外と素直だった。本当に、自分の感情をちゃんとコントロールできる大人であるようだ。顔を上げ、改めてマツリの顔を見る。改めて顔をちゃんと見ると、素直な気持ちが声に出た。
 「…本当に成人?」
 「うきゃー!」
 私はまた怒られた。

 マツリは、その後も週に一度くらいの頻度でうちにやって来た。いつも目は輝いており、大きなコントローラーを器用に操っていた。時間はバラバラ。最初の時のように平日真昼間に来たこともあるし、閉店に近い深夜にやって来たこともあった。中高生が多く訪れる夕方や休日には、ダンスゲームを主にやっていた。「圧倒的にうまい女の人がたまに現れるらしい」ということで、次第に学生がギャラリーをなすようになった。彼女自身もギャラリーの視線を楽しんでいるようだった。また、ゲームの合間に私とマツリはよく話すようになった。ゲームセンターの店員ということもあって、私はかなりゲームに詳しいと自負していたのだが、マツリの知識は私のそれを圧倒していた。ただ、レトロゲームにも通じている彼女はいったい何者だろうとより一層不思議に思った。職業を色々と考えてみたが、21歳で、時間にあまり拘束されにくい立場ということならば、大学生だろう。そういう結論に至った。
 「いや、フリーターだよ?」
 大学生だと思って話をするも、あまりにも会話がかみ合わなかったので確認してみると、まさかの返答が返ってきた。
 「…ということはまさかお前、親の金でゲームしてるのか?」
 うちはそれほど阿漕な商売はやっていないが、週に一度うちに来ており、話しぶりから他の店にも行っているらしいようであることを考えると、相当な出費になるはずである。親の金で贅沢三昧、というダメ人間の図が頭に浮かぶ。
 私の怪訝な顔つきを見て、マツリはあははと笑って手を振った。
 「まさか。全部自分のお金だよ。アタシこう見えてもけっこうバイト掛け持ちしてるからね。一人暮らしして、生活費も自分で全部払ってるよ。生活の中心にゲームがあるってだけで、フリーターといってもやってることは普通の務め人と同じじゃないかな…たぶん。」
 仕事も惜しんでゲームとは、なかなか筋の入ったゲーム狂いだ。
 趣味に生きる、というのは確かに魅力的な生き方だろうが、普通の人間はなかなかそこまで思い切れない。「家庭が…」「社会が…」私たちは言い訳を繰り返して「大人」になる。それが普通だ。
 しかし、そう考えると、21歳にもなって本気でゲームを楽しみ、「大人」になりきることができていないマツリが幼児体型なのは、ひょっとすると筋の通ったことなのかもしれない…
 「でも、ゲーム大好きなのでフリーターやってますーって言うと、大抵の人には「マツリちゃんは身体も心も子どもだよね」って笑われるんだよね、あれがほんっと腹立つ!マツリさんはお姉さんだっての!」
 みんな考えることは同じようだった。今度は私が苦笑し、彼女に尋ねる。
 「でも、その生活をずっと続けていく気なのか?」
 「うーん、…わかんないな。」
 マツリはぽつりとそう言うと、私との会話を切り上げ、ダンスゲームのコーナーへと向かっていった。時計を見ると、時刻は既に午後三時半。30分後には学校帰りの若者がマツリのゲームパフォーマンスを見に来る。ギャラリーのために、彼女は入念な準備を欠かさないのだった。

 
しかし、その後3,4回来た後、マツリはぱったりと来なくなってしまった。叔父に尋ねてみると、元々彼女の家はここより少し離れた場所であり、なかなかこちらまでは気軽には来れないだろうということ。来なくなっても仕方がない、むしろ自然だと言う。
 私にとっても、多少おしゃべりが弾む知り合いでしかない。まあそんなもんだろうと思って、またいつもの日々へと戻った。
 

 数か月後、店頭で泥だらけのマットをはたいていたら、後ろから名前を呼ばれた。おや、この声はと思って振り向くと、マツリだった。最後に見たのと同じ軽装をしていたが、帽子にアクセサリーが数個増えていた。
 「おお、久しぶりだな。」
 「どもども~久しぶりに休みが取れたから顔をのぞきに来たよ!」
 「休み?ということは、もしかして、フリーターを脱したのか?」
 「えへへ…実はそうなんだ。」
 照れくさそうに笑う彼女に対して、私は少しがっかりしてした。何か裏切られたような、そんな感じがした。彼女もやはり「大人」になってしまう人間だったのか。
 「とは言っても、そんなにきっちりしたハードな仕事じゃないんだけどね。」
 「…ああ、最近はフレックスタイム制とか色々あるらしいからな。のびのびと働けるのは良いことなんじゃないか。ゲームセンターはほぼ年中無休だぞ…そういや、何の仕事なんだ?IT系とかか?」
 「えーっと…セブンスシスターズって知ってるよね?」
 「セブンスシスターズ?久しぶりに聞いたな、その名前。俺は詳しくはないが、数年前に流行ったよな。懐かしい…それがどうかしたか?」
 「うまく言えないんだけど、セブンスシスターズみたいな仕事してるの。」
 「セブンスシスターズ…あっ、芸能人か!歌手、女優、ダンサー…まさか芸人?すごいな、サインくれよ。ウチに飾っとく。」
 「うーん、全部ハズレ。えっとね、アタシの職業はアイドルなの。」
 私は驚いた。確かに、セブンスシスターズは「アイドル」という集団だった。颯爽と現れ、高い個性と独創性で一世を風靡した。国民的な人気を誇り、芸能事情に疎い私でさえ代表曲くらいならばなんとなく口ずさめる。しかし、人気の絶頂期にセブンスシスターズは突如解散した。その後、二匹目のどじょうを狙った芸能事務所が彼女たちによく似た「アイドル」をたくさん売り出したものの、人々が熱狂したのは、セブンスシスターズであって、「アイドル」ではなかった。セブンスシスターズの熱狂が醒めるとともに「アイドル」の人気も下がり始め、今ではごく一部のマニア以外は「アイドル」というものを忘れ始めていた。約2年という短い期間で頂点を上り詰めたセブンスシスターズは、忘れられるのもまた早かった。「アイドル」は、今では「時代遅れ」の代名詞ともいえる。私も本物の「アイドル」を実際に見たのは初めてだ。
 「…なんでまた、「アイドル」に?ていうか、今でもやってるところあるんだな。」
 自分の考えをまだ整理できていないが、とりあえず質問を投げてみる。
 「そうそう、アタシもスカウトされて初めて、アイドルってまだあるんだなって知ったの。で、スカウトされて、特に深い理由はないけど、やってみると意外と楽しかったからやってる、みたいな感じかなあ。」
 全く要領を得ない答え。マツリの方もそれは自覚しているようで、どう説明したものかと少し考えこんでから、あっと閃く。
 「そうだ、アタシのステージが今度あるんだけどさ、来てみない?そしたらわかるんじゃないかな。チケットあげるよ。さばけなくて困ってるんだ。」
 「…なんで売れない「アイドル」のチケットを買わないといけないんだよ。」
 「いやいや、話聞いてた?あげるの、三森マツリ登壇ステージのチケット、本来なら500円のところをなんと無料でプレゼント!どう?」
 「やけに安いな…お前それで本当に食えてるの?」
 「あはは…実はほとんど儲からなくて、ぶっちゃけバイトの方が稼ぎがいいくらいなんだよね、困った困った。」
 私は少し迷った。それほど深い仲ではない客からの、何やらよく分からないチケット。まさか、これは手の込んだ新手の美人局じゃないか…?
 「…まさかな、美人局ならこんな幼児体型よこさないよな。わかった、1枚もらう。大した力にはならんだろうが、500円で買おう。」
 「なんかすっごく失礼なこと言わなかった、今!買ってくれるのは嬉しいけど!当日のステージで目にもの見せてやるんだからねっ!」
 マツリは憮然とした顔で私から受け取った500円を手に、すぐさまレーシングゲームに飛んで行った。
 「うひょー、この感触久しぶり!腕が鈍っていないことを祈るよっ!」
 こうして、ゲームセンター店員の俺から手に入れた500円を、マツリは1000円にして再びゲームセンターに還元したのだった。
 
 私は、マツリが「アイドル」になっていたことが嬉しかった。まだ彼女は「大人」になっていない。それが確認できたことに心躍っていた。

 3日後、公演の時間の15分前、私は会場にたどり着いた。「ナナスタ」と書かれた狭くて小さい会場には、既に人がそれなりに入っており、熱気があった。そういえばここ数年音楽ライブにも行っていなかったことを思い出す。最後に行ったのは大学生のとき。友人が誘ってくれた、男性シンガーのライブだった。正直私はそのシンガーのことをよく知らなかったのだが、会場の熱気に巻き込まれ、翌日軽く筋肉痛を覚えるほど盛り上がったことを覚えている。
 今回の会場はその時のものよりかなり小さい、というよりここまで小規模のライブに来たのは初めてだった。照明は移動用に最低限ついているだけなので暗く、遠くまではよく見えないが、客は200人くらいだろうか。500円×200人は…10万円。さすがにこれではロクな商売にならないだろう。
 私が何の得にもならない金勘定をしていると、突然、照明が全て消えた。いよいよ始まるらしい。未知への期待に、知らず鼓動が速くなる。
 「…さてさて皆々様、今日は第8回ナナスタ定期ライブにようこそお越しくださいましたッ!「定期」と言いつつ第7回からだーいぶ待たせてしまったことをお詫びいたします…が!それだけパワーアップしたパフォーマンスを見せられると思います!それではまずはトップバッターから参りましょう!つい最近デビューしたばかり!フレッシュではじけるパフォーマンスをお楽しみください!Le☆S☆Caで、「YELLOW」!」
 ユニットの名前が読み上げられるとともに、ゲームセンター以上に大きな音でかかるイントロ。それに負けない客の歓声。ステージの袖から現れたのは、3人のかわいらしい少女たちだった。
 「みんな、今日は来てくれてありがとう!」
 「待たせた分だけたっぷり魅せてあげるわ!」
 「最後まで楽しんでいってください!」
 イントロが終わる。3人が息を吸い込んだ――……
 周囲が熱狂する中、しかし私はどこか拍子抜けだった。確かに、少女たちは可愛らしかった。だが、「可愛い」以上のものを感じることはできなかった。歌は悪くないが、ショートカットの子がやや突っ走ってきたような気がするし、ダンスはなかなかレベルの高いものだったが、背の高い子は十分にはついていけていないようだった。熱意は痛いほど伝わってくるのだが、実力が追いついていないような気がした。盛り上がる観客の中にいて、私は1人だけ場違いなような気がした。
 

 悪くはないし、久しぶりに「アイドル」を見ると、面白いものだ。
 ただ、金を払ってまでもう一度来るかと言われると微妙かもしれない。
 その後も次々現れる、様々なタイプの少女たちをぼんやりと眺めながら私はそう考えていた。
 「さて!盛り上がってきたところで次のアイドル!身体は小さいけど、そのパフォーマンスは神ってる!三森マツリちゃんの登場です!」
 開始から1時間ほど経っただろうか。やっとマツリの名が呼ばれる。
 ぱたぱたと袖から現れたマツリを見て、思わず「おお」と声が漏れた。
 「やっほー!マツリお姉さんの登場だよ!今日はよろしくー!」
 いつもゲーセンで見かけていた軽装とは違い、これまで出てきたアイドルと同じような雰囲気をまとう、可愛らしい衣装だった。ただ、よく見ると衣装のあらゆるところにゲームコントローラーやボタンをあしらったものがたくさんついていて、彼女らしさもよく出ている衣装だ。なるほど、これが「アイドル」三森マツリか。
 「オッケー、じゃあ行くよ、カバーをやらせてもらいます!…「B.A.A.B.」。」
 おや、と思った。これまで他のユニットは、自分たちのオリジナル曲を歌っていた。しかし、マツリが歌っているのは、現在大ヒット中のユニット、「KARAKURI」の曲だった。ここに来てのカバーは意外だったが、しかし私の不安をよそに、マツリは「B.A.A.B.」を見事に自分風にアレンジしていた。
 もちろんオリジナルの双子パフォーマンスには及ぶべくもないが、マツリなりの解釈を踏まえたパフォーマンスになっており、面白いものだったと思う。1曲を1つのゲームステージに見立てて進行するというのを1つの中心に据えていた。さらに、ゲームのコントローラーには「A」のボタンと「B」のボタンがよくついているが、それを踏まえ、曲名にもなっている「A」や「B」がつく言葉が歌詞に出てくるたびに、その場でジャンプしたりポーズを決めたりする。その動きは往年の名作ゲームのパロディーになっていて、ゲーマーならではのこだわりがよく見えた。
 「B.A.A.B.」そのものも私は割と好きなので、このパフォーマンスに夢中になった。しかし、周りを見ると、相応に盛り上がってはいるものの、それまでのパフォーマンスよりはあまりノッていないようだった。おそらく、ゲームネタがややマニアックなため、ネタについてくることができない客が多いのだろう。「B.A.A.B.」の曲自体も独特なリズムなので、アップテンポの曲の次に来るとその急旋回に戸惑うのだろう。
 「ありがと!」
 最後にウィンクを飛ばし、マツリはステージから下がっていった。観客は最後まで「まずまず」の盛り上がりだった。

 その後もたくさんの「アイドル」が現れ、パフォーマンスをし、去っていく。2時間半が経ち、全員が登場して一曲歌ったところでライブは終了した。結局、最も私の心をつかんで離さなかったのはマツリのパフォーマンスだった。一方で、多くの客はそう思わなかったのだろうなとも思った。

終演後、既に日が暮れた道を一人で帰りながら、私はライブの内容を反芻していた。
 全体的に見るとわりと面白かったし、500円と考えるとむしろお買い得ともいえるパフォーマンスなのだが、それほど心震えるものではなかった。マツリには悪いが、手間を考えると、次の公演には行かない…いや、マツリのパフォーマンスは好みだった。マツリのステージが見られるなら行ってもいいかもしれない。楽曲をゲーム風のパフォーマンスとしてアレンジするというのは面白いと思う。
 考え事をしながらゆっくりと歩いていると、入ったことのないラーメン屋を見つけた。今日はもう外食でいいかと暖簾をくぐる。いい匂いが鼻を突き、空腹を覚えると同時に疲れも感じた。知らぬ間に体力を消耗していたらしい。
 「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ。」
 店員さんに促され、カウンターに座る。醤油ラーメンと餃子を注文し、ホロコンをいじる。
 「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ。」
 新たに2人の客が入ってきて、私の隣に座る。座るなり、1人が口を開いた。
 「やっぱさ、レスカは凄いって思うんだよ。」
 「分かるけど、個人的には今日のMVPはニコラかな。」
 偶然にも、隣に座った2人はどうやらナナスタライブに参加した客のようだった。怪しまれないようにホロコンは触りながら、せっかくなので会話に耳を傾ける。
 「レスカはあの初ステージからマジでうまくなった!」
 「あーくそいいな、俺それ見てないんだよ…」
 「まあ、俺もまさかハルちゃん見に行って、まさか代打のレスカにはまるとは思わなかったわ、キョーコちゃんマジかわいい。」
 「配信のヒールっぷりも最高だけど、やっぱり生で見ると顔ちっちゃいよな。」
 「最初はスリーセブンのおまけみたいに出てたのに、今や定期公演のトップバッター任せられてるんだぜ、最高かよ。」
 「最後のハジマリウタでセンターで立ってたの見て泣いちゃったよなあ。」
 「あーレスカまた会いてえ…」
 「はは、ニコラもよくなかった?」
 「そういや今日はコルシカの子ら来てないなーって思ったらまさか「テスト期間だから会長命令で一定の成績の人以外は参加不可にした」って言ってて笑ったわ。」
 「相変わらずムスビちゃんって住む世界違うよなあ…なんであの子アイドルやってんだろ。」
 2人の会話を聞いていると、ステージが立体的に見えてきて面白い。
 オープニングで登場したユニット「Le☆S☆Ca」はどうやらデビューしたてらしく(そもそも全員デビューしたてらしいが、その中でも特にデビューからまだ間もないらしい)、デビューから追っていたファンから見ると、短期間でめきめきと成長しているらしい。「Le☆S☆Ca」以外の子たちについても様々なエピソードが飛び出してくる。
 やって来た醤油ラーメンをすすりながら会話に聞き入っていると、2人はマツリにも言及した。
 「マツリさんは相変わらずゲームオタクだよな!」
 「いやあ、俺ゲームほとんどやんないからさ、ぶっちゃけよくわかんないんだよね。」
 「まあ俺も似たようなもんだよ。マツリさんはゲームだけじゃなくて色々やってみてもいいと思うんだけどな、あんだけちっちゃいんだからちょっと幼女路線とかもいけそう。あ、でも…」
 「マツリさんはお姉さんだから、だろ?」
 「そうそう、あの駄々っ子はウケるよな。」
 案の定、ゲームネタはウケが悪かったようだ。口ぶりから察するに、どうもこれまでのステージでもゲームネタを繰り返してもいるらしい。
 パフォーマンスそのものにはあまり触れられずに、2人は別の子の話題に移ったが、私はマツリについての二人の会話を考えていた。
 初めて会った時の見た目と中身のギャップ。
 生活をゲームの中心に据えるマニアっぷり。
 卓越したゲームプレイと、パフォーマンス。
 ステージの外のマツリとステージの上のマツリは、やっていることは少し違っていたけど、でも確実に同じ人で、ゲームが好きで、パフォーマンスが好きなのだということが伝わってきた。
 そこでふと気がつく。でも、なぜゲームが好きならゲームのプレイヤーとしてだけ楽しめばいいのに、わざわざゲームの外の世界である「アイドル」に手を出したのだろう。ゲームの世界なら、もっと彼女を評価してくれる人がいるはずだ。2人はマツリのパフォーマンスをあまり高く評価していなかったが、他の多くの客もそうだろう。しかし、彼らはゲームフリークではなく、「アイドル」のファンなのだから、ある意味当然だ。それくらい分かりきったことなのに、マツリは、なぜゲーム風のパフォーマンスを繰り返すのか?彼女は何を思ってアイドルになったのか…?
もしかして、不本意ながら「アイドル」をしているのではないか?
 少し考えてみたが、答えは出なかった。
 ラーメン屋を出て家にたどり着くと、すぐに眠気が襲ってきた。
 マツリの真意に思いを巡らす暇もなく、すぐに意識は飛んだ。

 「いやあ、昨日はありがとね!」
 ライブの次の日。夕方になって現れたマツリは、満足そうに笑っていた。
 「うん、面白かったぞ。ゲームネタもたくさんあったし。」
 「お、そこを分かってくれるとはさすがゲーセン店員ですな~。喜んでもらえたようでなにより。」
 「ああ、他の子とはまた違う雰囲気だったが、俺はむしろああいうのが好きだな。」
 「ナナスタっていろんな子がいておもしろいっしょ!私も毎日楽しいんだ。」
 にひひと笑う彼女の眼は、無理をしているようには見えなかった。だから私は彼女に訊こうと思ったことを胸の内にしまい、代わりの質問を投げかけた。
 「そう言えば、他の子はみんなオリジナルだったのに、お前だけなんでKARAKURIのカバーだったんだ?」
 「おう、それもなかなか鋭い指摘だね。実は私、まだ持ち歌が無いんだよ。」
 「そうなのか。へえ、それは意外だな。てっきり歌手みたいに、自分の曲とともにデビューするもんだと思ってた。」
 「まあそういうパターンが多いけどね。だからというわけでもないんだけど、どうしても出られるライブやイベントも限られちゃってさ。今回のも久しぶりの定期ライブだったんだ。」
 「ふーん、じゃあいつ曲もらえるの?」
 「期待してもらってるとこ悪いんだけど、実はまだ決まってないなんだよね。アタシもわかんない。」
 「なんだそれ、お前そんなんでいいのか?」
 「まあまだデビューしたばっかだし、とりあえずは他のお仕事頑張るつもり。」
 「そっか、がんばれよ。」
 「へへ、ありがと。」
 申し訳なさそうにそう言うと、彼女は帰っていった。どうも忙しい中わざわざ時間をぬってお礼を言いに来てくれたらしく、ライブにいまいち乗り切れず、「アイドル」が何かよくわからなかった私としては、なんとも言えない気まずさを感じたのだった。

 その後数か月は、マツリは月に一度来るか来ないかという感じだった。
 私はナナスタのホームページをたまに閲覧して、彼女の仕事を見ていた。その感想を、たまに来店するマツリに伝えるのがいつもの流れになっていた。
 「この前のお前が出てたイベントのゲーム、ドットのゲームって久しぶりに見たわ。」
 「そうそう、このご時世にドット?って思ったけど、やってみるとハマるんだよね、これが!あの衣装とか背景のプロジェクションマッピングも凝ったものでさ、愛感じるよね。」
 「口紅のポスター見たけど、あれすげーな。やっぱりメイクってすごいと思った。」
 「うんうん、マツリお姉さんの魅力が…ってあれ?私は褒められてるのか?」
 「制服って流石に厳しいかなって思ったけど、みんな意外と好評でさ!」
 「違和感がなさ過ぎたんだが、やっぱりお前ティーンエージャーだろ?」
 ライブにはあれ以降2回だけ行った。マツリが出た時だ。マツリのゲーム的なパフォーマンスは相変わらず私の好みだったが、マツリ以外の「アイドル」についても、ホロコンの配信や周囲の噂話などから少しずつ情報が入ってくるにしたがって、この子も色々頑張ってんだな、くらいは思うようになった。
 ただ、それはあくまでそれくらいのものだったし、現に私はマツリが出るとき以外の公演には足を運ばなかった。
 「お前、最近マツリちゃんの映像よく観てるな。好きなのか。」
どうやら私は周りから三森マツリのファンと思われるくらいのものにはなったようだと知ったのは、叔父がそう言ったからだった。
「好きというか、面白いよな。」

 ある日、ナナスタのサイトを見て驚いた。
 「新ユニット登場!「The QUEEN of PURPLE」!メンバーは越前ムラサキ、瀬戸ファーブ、堺屋ユメノ、三森マツリ デビューシングル「TRIGGER/Fire and Rose」発売予定!」
 とうとうマツリにも持ち歌ができるらしい。「QUEEN」の文字や英語名の楽曲、特に「TRIGGER」――「引き金」が引っかかった。どうもカッコイイ系のグループらしい。カッコイイ「アイドル」、というとセブンスシスターズみたいな感じだろうか。マツリのイメージとは少し違う――あいつがクールに決めるというのは想像できない――が、なんにせよ楽しみだ。ここ三か月ほどウチに来ていないが、それはこれが忙しかったからだろうと合点がいく。
 
 数日後に「TRIGGER/Fire and Rose」の視聴が始まった。聞いてみて意外だったのが、マツリの声が聞こえなかったことだった。おや、と思って楽曲情報を調べてみると、どうも「The QUEEN of PURPLE」はバンドユニットで、堺屋ユメノさんとマツリはそれぞれ楽器の演奏に専念するらしい。あいつドラムなんか叩けたのか。確かにリズムゲームの類は(も)全体的にうまかったが、ドラムやってたから音感があったということか。私はそう納得して、改めて楽曲を視聴した。
 私は音楽は素人だが、確かにボーカルの越前ムラサキさんの歌はうまかった。うまかっただけに、なぜこの子は歌手ではなく「アイドル」をやっているのだろうと思った。ベースの瀬戸ファーブさんが楽曲も作っているらしいが、なかなか尖っている――というよりそれまで聞いたナナスタの「アイドル」の曲とはかなり様子が違っていた。堺屋ユメノさんがどういう子かはよく分からないが、これだけギターを弾けるのだから、どちらかと言えばアーティスト志向なのだろう。
 私はガールズバンドにも疎いが、「アイドル」よりはまだ多少わかる。4人とも「アイドル」っぽくない、どちらかと言えばガールズバンド寄りの「The QUEEN of PURPLE」はわりと好きな部類の音楽だった。こういう曲を聞けて良かったし、知り合いがそこにいるというのがなんだか嬉しかった。
 初めてナナスタのライブに行ったとき、私は「マツリは何を思って「アイドル」になったのだろう」と不思議だった。しかし、彼女がドラムをやっていたということを考慮すると、もしかしたらバンドみたいなことがやりたかったのかもしれない。だけど他にメンバーがなかなか揃わなくて、ソロでゲームみたいなパフォーマンスをしていた、みたいなことかもしれない。
 繰り返し「The QUEEN of PURPLE」の楽曲を聞きながら、私はなんとなく答えを出せたような気がして、すっきりとした。そうか、そういうことだったのか。
だったらマツリのやりたかったという、そのパフォーマンスを見に行かないとな…。
 その日から、「The QUEEN of PURPLE」の公演が来るのを今か今かと待つようになった。デビューシングルも、配信日にすぐに購入した。こんなに1つの音楽グループに注目するのは久しぶりだった。ただ、マツリはその後、ずっとうちの店には現れなかった。忙しいのだろうと思うと同時に、寂しいとはっきり感じるようになった。

 「ハーイ、こんばんは。越前ムラサキだよ。喋るのは得意じゃないから、早速行こうか。――「TRIGGER」。」
 うおおおお。
 さほど大きくないが頑丈な会場が歓声で震える。ファンがあげるその声の集合のなかに私も混ざっていた。
 シングルリリースから数か月。やっとQOP(The QUEEN of PURPLEの略称)の初お披露目の公演ということで、久しぶりにナナスタを訪れ、久しぶりにマツリを見た私は、彼女の姿に見とれた。
 黒と紫を基調とした衣装は、クールかつセクシーだが、パフォーマンスは圧倒的にパワフルだった。身体がすっぽりと隠れてしまうほどのドラムセットに真っ向から挑み、豪快に演奏する。他の三人も個性的なパフォーマンスをしていたが、彼女達に負けず劣らず、だけど壊し合うのではなく共鳴する。
 もちろん四人とも技術的には完璧とは言えない。少しテンポが速いし、ミスもある(気のせいかもしれないが、マツリのミスがやや多かったと思う)。だが、それも会場の熱気が覆い隠す。ドラムに隠れてあまり身体は見えなかったが、腕はムチのようにしなり、眼光は鋭い。たまに帽子を押さえる仕草はチャーミングだ。4人を順番に見ていたつもりだったが、気がつくとマツリのみに視線を注いでいた。
雰囲気に、空気に、音に、そしてマツリに、没頭していた。自分が溶けていたような感覚だったと、今なら思う。その瞬間はこんな風に自分を俯瞰する余裕はなかったが。
マツリの表情が緩んだと思ったら、いつの間にか曲が終わっており、私の声は枯れていた。
 「ふー!どもども、The QUEEN of PURPLEでした!みんな、楽しんでくれた?」
 マツリは疲れ切った、でも笑みを浮かべて息を吐き、会場に呼びかける。私はそれに応えようとするも、声がかすれて出ない。
 「楽しんでくれてアタシも嬉しいよ!頑張って練習した甲斐があったってもんだ!」
 「マツリさんほんと最高に可愛かったよ~♡一生懸命イチから練習する姿も守ってあげたいって感じだったけど、今日のマツリさんにはむしろ守ってほしいまである!」
 「ほんとだね、よく初心者からここまでこれたと思うよ。」
 えっ、どういうことだ。ファーブさんの一言に、会場がざわつく。
 「ああ、言ってなかったっけ。こんなかでマツリだけ未経験者なんだ。けっこう練習したんだよ。」
 「いやー、けっこうどころの騒ぎじゃなかったぜ?マメがいくつ潰れたことやら。」
 えーっ!すげー!会場が騒然とする。私も驚きだった。それは、彼女が経験者に負けないパフォーマンスをしていたからというよりもむしろ、私の予想とは違っていたからだった。私は、マツリはバンドをやりたたくてアイドルになったが、できないので半ば仕方なくゲームパフォーマンスのようなものをやっていたのだと思っていた。しかしそうではなく、ドラムもQOPになって初めて触ったらしい。自分の予想が崩れ、再びあの疑問が浮かぶ。
 三森マツリは、どうしてアイドルになったのだ…?
 その日の公演が終わり、ラーメン屋で醤油ラーメンを食べても、家に帰っても、答えは出なかった。

 数日後、久しぶりに表れたマツリに、私は尋ねた。
 「なあ、マツリ。なんでお前はアイドルをやってるんだ?」
 「ん?前も言わなかったっけ。やってみたら意外と面白かったからだよ。」
 「そうじゃなくて、目標だよ、なんで食えないのにアイドルをやって、なんでウケないのにゲームを題材にパフォーマンスをやって、なんで初心者なのにドラム叩いてるんだよ。お前は、何がしたいんだよ。」
 マツリは、思わず語気が強くなった私に目を丸くしたが、すぐににやっと八重歯をのぞかせる。
「それはね…」
そこで目が覚めた。夢だった。QOPの公演以来、私はほぼ毎晩この夢を見る。あれからもう1週間経ったのに。自分がこの問いに囚われているのを感じる。それは不快ではないが、楽しいというものでもない。
QOPの初公演は終わったが、まだマツリはウチには来ていない。もう来ないかもしれない。ギャラリーだった子どもたちも、今日は来ているかなとマツリの姿を探すことが、ほとんど無くなった。
だけど、私はきっとマツリの公演にまた行くのだろう。彼女が私になにも語らないとしても。
「お前、すっかりマツリちゃんのファンだなあ。」
 叔父は笑う。
 「曲聴いてみたが、まだやっぱり女の子って感じだな。ジジイにはよくわからんよ。」
 
 見当外れのことを言っている叔父に対して、私は口を開いて、しかし何も言葉を発することなく閉じる。彼女についての「物語」は、私のなかでもまだ混沌としているからだ。だから、それを語るかわりに、ただこう言った。
「そうだな、ファンだよ。意外と面白いよ、アイドルってのは。」




あとがき
これはもともと、1年ほど前に本ブログにあげたマツリさんについての小説でした。今回も内容はその時のものとほとんど同じです。誤字脱字の修正にとどめました。1度消したものを再度あげる気になった理由は単純で、エゴサしてたら「あれ面白かった」と言ってくださった方を見つけたからです。私自身、拙さが残るどころか拙さしかないこの小説まがいを最後まで嫌いになり切れなかったので、あげ直すことにしました。以前書いた記事で言及した「小説」というのはこれです。つながりがあるのかないのか自分でもよく分かりませんが、あわせて読んでくださると嬉しいです。それでは。

メモリアルライブを終えて

皆様こんにちは。客野です。今私がこれをLINEにつらつらと書き連ねているのが2018年7月22日午前0時を過ぎたころ、東京から福岡へと戻るバスの中です。
まずは定型文的な挨拶から。
メモリアルライブお疲れ様でした。もうあえて詳細は語りません。これ以上なく最高とまでは言いませんが、とても良いライブだったと思います。行けて良かった。

さてここからは自分語りをしばらくさせていただくのですが、私は今回のライブで支配人業からしばらく遠ざかることを、既に以前のブログの末尾に記していました。理由はシンプルで、人生の岐路にいるからです。中途半端なことをしたくないからです。個人的な事情になるのでこれ以上は言いませんが、なんとなく察していただけると幸いです。
ただ、あのブログの記事を書いた時には「まだまだ続けたい」という気持ちもそこそこ持っていました。というのも、メモリアルライブで何かしらの告知が出るであろうことは明白で、私はそれがアニメ化だと思っていたからです。それは見逃したくないと思っていました。だから、メモリアルライブの翌日にコラボカフェの予約とかもしていました。なんだかんだ言って自分は弱いから、中途半端に支配人業をメモリアルライブ後も続けていくのだろうと自嘲気味に予想をしていました。
でも、そんな中途半端なやり方をしていたら、QOPに怒られてしまいました。新曲"Clash"は全く予想していない展開でしたが、何より驚いたのは、それがメモリアルライブ翌日の00:00、つまりわずか3時間後にリリースされるということでした。メモリアルライブの次のステップは、もうすぐそこから始まるーーそのことを私は直感的に理解しました。だったら、メモリアルライブの日の23:59まで支配人業をすることにして、そこでひとまず区切り、という形が1番適切なのではないかと、そのリリース情報が出た瞬間に思いつきました。

そしてライブが終わって家に帰り、感想ツイートを呟いてみたり漁ってみたりしているうちに、あっという間に時計は23:30を回っていました。ライブ中に感じていた火照りは少しづつ収まってはきたものの、23:59で区切りをつけるという思いは消えませんでした。
23:50頃から、推しの3人(ムスビ、レナ、マツリさん)にそれぞれメッセージを作り始めました。大急ぎで作ったので出来は悪いですが、その穴を埋めるのはまたいつか復帰してからだと思っています。
そしていよいよ00:00。最後のログインボーナスを受け取り、ホーム画面へと移動した私は、そこで驚くことになります。

ホームにはQOPジャケのマツリさんがいたのです。

私は、その時マツリさんをホーム画面に設定していませんでした。ホーム画面に設定していない子がホーム画面に登場するということ自体がレアなのに、それがマツリさんだったというのは、驚くべき偶然でした。笑うマツリさんは、引き止めてくれているようにも、見送ってくれているようにも見えました。たぶん私の心情を投影してそう見えたのだと思いました。その時初めて少し決意が揺らぎましたが、迷いを振り切り、アプリを閉じてアンインストールしました。アプリ連携はしていますが、しばらくはさよならです。感謝の言葉しかありません。

思えば、今回のライブはとても印象的でした。センターステージでQOPの中心としてドラムを叩くマツリさん。強い絆で結ばれたハルムス。支払いを忘れていてそのままになっていたフラスタ代をちゃんと払うこともできましたし、大好きな絵師様のフラスタ企画にも参加させていただきました。これまでやり残したこと、見たかったことをほとんどやり切った、少なくとも精算はできたという思いが、今の私にはあります。その意味でもとても幸運でした。

さて、以上のようなことをナナシスを休止する「表の理由」だとすると、私にはもう1つ、「裏の理由」があります。そんなに大した話ではないのですが、私は、ナナシスに触れてから、ずっと悩んでいたことがありました。それは、自分はこのコンテンツが本当に好きなのだろうかということでした。私がナナシスに触れたきっかけは、お正月にBSで再放送されていたアイマスの映画、「輝きの向こう側へ」でした。挿入歌「M@STERPIECE」に圧倒された私ではあったのですが、それと同時に、十分に感動しきれない自分がいるとにも気づいたのです。再放送を観ただけの私と、リアルタイムでアイマスを追い続けた人とでは、感じるものが絶対に違うはずだ。私がこの映画を観て10感動したとしても、その人達は100、いや1000感動するのだろう。私はそれが凄く悔しかったのです。「マイナーな頃からコンテンツを追い続けたら、最高の晴れ舞台でどれくらい感動できるのだろうか。」その思いが私をまだ見ぬマイナーコンテンツへと駆り立てました。
その時知人から教えてもらって出会ったのがナナシスです。当時既に1stライブを終えており、マイナーからは程遠いと今なら思わなくもないのですが、当時の私はまだまだ無知で、アイマスラブライブなどアニメ化している作品がメジャー、そうでない作品は全部マイナーくらいに思っていました。要するに、私はナナシスを自然と好きになったのではなく、ある意味目的をもって好きに「していった」のです。
マツリさんを好きになったきっかけも同じようなものでした。当時は777シスターズとLe☆S☆Caしかユニットはなく、マツリさんはいわゆる未デビュー組でした。「せっかくマイナーなコンテンツを推すのだから、その中でもあまり人気の無い子を推そう」という、今マツリさんにこんなことを言うと突き飛ばされそうな理由で私はマツリさん推しになったのでした。
もちろん、SEVENTH HAVENが大好きだったり、「自然と」好きになった部分も無くはないのですが、「ナナシスに触れたきっかけ」「推しキャラを決めたきっかけ」という、最も根本的な部分について、私は「戦略的に」振舞ったと言わざるを得ないのです。この行為は、この後ろめたさは、今もなお私の内にあります。
私はナナシスを、マツリさんをちゃんと好きでいられているのか…?

この葛藤をさらに複雑にしたのが、私はライブで泣いたことが全くないということです。うるっときたこともありません。最初のうちは「私泣けないんだよねw」とネタにしていたくらいなのですが、マツリさんのデビュー舞台を見ても泣けなかった時に、あれ?と思いました。先に断っておくと、私は「泣けない」人間ではありません。涙脆いという程ではないですが、感極まれば人並に涙が出ます。
「自分が泣けないのは、ナナシスが好きではないからではないか」と次第に思うようになりました。それを打ち消すために、メモリアルライブまで色んな文章を書き連ねました。マツリさんが好き、ハルムスが好き、レナが好き…彼女たちについて考えなかった日は1日もありません。
でも、結果として私はメモリアルライブでも一滴すら涙を流しませんでした。何度も何度も聴いた「またあした」をだーみなが初めて披露して、周囲からすすり泣く声が聞こえてくるのに自分は目がうるみさえしないと分かった時には、軽く絶望感さえ覚えました。なんで、これ以上無く泣けるところなのに、どうして私の涙腺は反応しないんだ…こういう風に思ってしまう自分も嫌でした。こういう風に思うことそれ自体が、私が泣けない理由を端的に表しているように思ったからです。

以上のようなことは、私がナナシスと距離を置くことを決めた直接の原因ではありませんが、ずっと接していることで苦しみ続けたことではあります。「感動したい」という意思が如何に倒錯した欲求であるかを理解したのが遅すぎたのだと思います。

正直、今この文章を書きながらも、自分がこれまで語ってきた「好き」は、全て偽物なんじゃないかという不安があります。「そんなことないよ、客野さんはすごく真剣に考えてるだけだよ」と言ってくださる方がいて、それは非常にありがたいことなのですが、私の涙が流れず、そのことを自分が気にしているというこの浅ましい考えがある限り、私は全て打算でナナシスを好きになったのではないかと、言葉を重ねれば重ねるほど心は遠くなってしまったのではないかと、思わざるを得ないのです。でも今更他の生き方なんて思いつきません。私がナナシスに接し続ける限り、不安はいつまでも私の後ろをついてまわるでしょう。

私は、2nd以降、2.5の夜公演を除き、全てのライブ・公演に参加しました。今回支配人業を休止することになったため、4th不参加は確実です。それは、そもそも存在を知らなかった1stと、チケットが取れなかった2.5夜公演とは違い、私が自覚的に不参加を決めた最初のライブになります。付け加えると、QOP、そしてマツリさんの上がるステージを見ないことになる初めての機会になります。この状況が生まれたのはあくまで偶然(繰り返しますが、後ろめたい云々はあくまで裏の理由です。今の思いを聞かれると4thも普通に行きたいです)ですが、これは同時に格好のリトマス試験紙でもあります。もしこの不参加が単に勿体ないという思いしか私にもたらさないのだとしたら、私の想いはその程度でしかなかったことがはっきりと分かります。でももし、ちゃんと「悲しい」と、「次は絶対に会いに行きたい」と思ったならば、少しは自分を見直すきっかけになるかもしれません。マツリさんに心から大好きだよと伝えられるかもしれません。でもまずは、表テーマ、本題をどうにかしないといけません。それができなければ、ナナシスを否定する云々の前に自分を否定することになってしまいます。なんとか頑張って夢を叶えて、その後にマツリさんに、みんなに、笑顔で再会できたらいいなと思います。

三森マツリさんについての個人的所感

三森マツリという「不可解なもの」
「これは偶像の物語じゃなく人間の物語です」――茂木監督のQOPノベライズ帯より


 半年ほど前でしょうか。私はマツリさんを題材にした小説を書いたことがあります。語り手には自分自身を投影したゲームセンターの店員を置いて、彼から見てマツリさんがいかに不可解で、同時に魅力的かを描いた、小さな小さな短編でした。
 私には(当然)小説の巧拙なんてわからないのですが、個人的には今でもわりと気に入っています。特に何も考えずに書き始め、思いもしなかったところに着地したその小説の結末は、こちらからは何もコントロールできなかったのにも関わらず、不思議と違和感を覚えたなかったからです。やっぱり私にとってマツリさんはこういう人なんだなあという納得さえありました。私にとって三森マツリさんという人間は不可解な存在なのであって、おそらくそれは私の無意識においても変わらない。そう確信したことを覚えています。
 今から綴ろうとする妄言は、その「不可解さ」をいささか積極的に語ろうとするものですが、その基本的な構成は、その時書いた小説と同じです。ただ少し「不可解さ」にとどまってみようと提案している点が違うところでしょうか。とりとめのない文章ではありますが、しばしお付き合い頂ければ嬉しく思います。
A
 まずは、マツリさんの「不可解さ」について、それが具体的にはどういうことかを考えてみたいと思います。
 端的に言えば、マツリさんの「はじまり」が見えないことが、私にマツリさんを不可解にさせています。B(ブロンズ)カードを見るに、どうやらゲームセンターで支配人がマツリさんを発見してスカウトに踏み切ったというのがファーストコンタクトであるようですが、ただ、それはあくまで支配人目線で合って、何故彼女がアイドルになったのかは判然としません。

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 基本プロフィールを確認しておくと、マツリさんは10月9日生まれの21歳。所属はフリーターで、特技は「ゲームならなんでも」。生粋のゲームオタクであると同時に、多くの人の前でゲームパフォーマンスを行うことも好みます。面倒見のいい性格でもあるので、彼女を「姉さん」と慕う若者(子ども?)も少なくありません。

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以上のようなことはちょっと調べればすぐに分かるのですが、しかし、これ以上のことを知ろうとすると、手掛かりは一気に少なくなります。それは、マツリさんを応援し始めて丸2年が過ぎた私でもそうです。
 例えば、金銭事情も謎に包まれています。どうも一人暮らしをしているようなのですが、全ての生活費を本当にアルバイトだけで賄うことができているのでしょうか。アイドルは薄給・激務です。ゲームは決して安上がりな趣味ではありません。ふだんどういう生活をしているのでしょうか。
 

なんでそんな細かい点が気になるんだと思われるのかもしれませんが、こういう生活をしているのがマツリさんだけならば、私も特に気になりません。似たような境遇の子――雲巻モナカがいるから気になっているのです。

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 モナカは、フリーター、アルバイトの「先行きの不安定さ」が、マツリさんとは違い、性格として十分に成立しているのです。彼女は自分がなぜフリーターになったのかをしっかりと語り、生活や趣味、そして新しい何かを探すために、数々のバイト――時にはマグロ漁船にまで乗ります――を行います。この突き抜けたフロンティア精神は、モナカの大きな魅力となっています。

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対して、マツリさんはどうでしょうか。カード『制服撮影』の台詞から判断するに、どうやら高校までは出ているようなのですが、18歳からどのような変遷があって現在に至ったのかは全く不明です。また、「中学生」と揶揄されるために勘違いされることも多いのですが、マツリさんの考え方は、基本的には成熟した大人のそれです。抜けたところもあり、ミワコ先生やミミさんと比べるとやや頼りないのは事実(この点はまた後で触れます)ですが、若者をちゃんと諭すことができる立派な「お姉さん」です。しかし、いや、だからこそ彼女は私にとって「不可解」なのです。

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とりあえず年相応に(精神が)成長し、良くも悪くもモナカより「常識的な」思考ができるマツリさんが、なぜフリーター、そしてアイドルという不安定な道を選んだのでしょうか。もし仮に彼女が全てを投げうって自分の人生をゲームに欠けたかったと考えるとするならば、フリーターになるのはまだ分かるのですが、なぜアイドルというわき道に逸れたのでしょうか。パフォーマンスを見せたいなら、動画配信でも何でもあったでしょう。
 当然、このようなマツリさんの過去について詳しく掘り下げたエピソードは、私の見た限りでは存在しません。777☆SISTERSは言うまでもなく、Le☆S☆CaやCi+LUS、ユニットデビューしていない数人の子でもナナスタ加入時のことは振り返られているというのに、QOPはその類のエピソードがほとんど存在しないのです(ファーブはちょこっとあります)。特にマツリさんは、その異色の経歴に比べて、明らかになっている情報があまりにも少ないです。
 また、もう1つ不可解なところがあります。それは、支配人との会話にあります。この種のゲームの例にもれず、マツリさんも支配人に恋愛っぽいアプローチをかけてくることが少なからずあるのですが、そのアプローチは、マコトやスースほど徹底してもいなければ、スミレやキョーコほどの熱量もなく、からかい半分のようなものです。ミワコ先生やミミさんのような、「普段は余裕ありげで、ときどき弱みを見せる」という関係でもなく、常にそれっぽい隙を見せるけれど、実際は捉えどころがない印象を受けます。時々持ち出す「恋愛ゲーム」や「好感度」という言葉も、照れ隠しというより、自分のキャラクターを演じているような気がします。
 恋愛トークはあくまで一例ですが、それに限らず、仕事についても、マツリさんとの会話は、常に謎が伴います。ムスビやレナがそうであるようには、マツリさんは自分の弱みを見せてくれません。それが私には不安の種なのです。
あえて極端な言い方をすれば、マツリさんが本当は何を考えているのか、私にはわかりません。好きなゲームや、バイトのシフトは知っています。ステージ上の笑顔も、メイクアップ中の素顔も知っています。しかし、彼女が何を思ってアイドルになったのか、どこまでが計算でどこからが素なのか、彼女は大人なのか子どもなのか、私は知りません。飄々とした姿の裏には、何かが隠れているのでしょうか。

しかし、マツリさんを必要以上に神秘化する必要はありません。彼女はもっともっと泥臭い「人間」です。
そのことがよく分かるのがQOPのノベライズです。ここには、マツリさんだけでなく、QOPメンバー全員の内面が随所に描かれています。アイドルデビューと同じくらい、ユニットデビューもまた、ナナシスにおいては大きな位置を占めるのは周知の通りです。4人が、何を思ってthe Queen of PURPLEというユニットを結成したのか。ここからは、マツリさんのユニットデビュー、つまり「2度目のはじまり」に目を向けて、考えてみたいと思います。
B
QOPは不思議なユニットです。まず、曲調がアイドルっぽくない。次に、歌ってるのは4人のうち2人だけ。最後に、メモリアルライブに参加するのに新曲がない。…まあ、最後のは冗談ですが、何にせよナナスタのなかでは唯一無二の立ち位置を占めていることには違いないでしょう。
ユメノとマツリさんが歌わないということについては、発表当時から各所でちょっとした波乱を呼びました。今もその渦中にいると言っても過言ではないでしょう。「私の推しがああなるのは嫌だ」という言葉は、今なお私の心をわずかに揺らします。
QOPは、瀬戸ファーブのユニットなのです。ファーブが曲を作らなければ、そしてそれをナナスタに持ってこなければ、そもそも何も始まりませんでした。ですが、ファーブだけではユニットにはなりません。いくつかの偶然が絡んで、このユニットは存在しています。
したがって、ファーブにバランスが大きく傾いているというのがこのユニットの味であり意味なのですが、そこを解さずに、「歌う」という点だけに耳を奪われるのは、ややもったいない気がします。そういう点も確かに大事なんですけどね。実際、自分も3rdの歌唱サプライズでその場で崩れ落ちたので。
さて、そういう話はともかく、QOPが有する「偶然」のうち、その多くがマツリさんに由来していることは間違いないと思います。ファーブがナナスタでバンドを組もうと思った時に、ユメノとムラサキについては即決というか、ほとんど初めから決まっていました。しかし、「ナナスタにはドラムがいない」と悩んでいた時に、たまたまバイトの申し込みで通りかかったマツリさんが、たまたまゲームパフォーマンスでファーブのお眼鏡にかなって、加入することになったのでした。だから、他の子がユニットに加入する余地は十分にあったと思います。
とはいえ、なぜマツリさんが創造主である茂木さんの「偶然」に選ばれたのかは、よく分かりませんし、考えてもしょうがないことです。重要なのは、与えられた偶然の機会をマツリさんが拾い上げたということです。彼女は、自分が音楽の素人であることを理解したうえで、ファーブに手を差し伸べたのでした。


(そうそう、アタシはお姉さんなんだから)
ことを彼女たちの運命に任せたり、他のだれかに任せてしまってもいいのだけれども、ここまで事情を聞いて「あ、そう。がんばってね」と簡単にさじは投げられない。
自分が面倒見てやらなければ、絶対どこかで転ぶ。
そんな3人の姿なんて見たくない!
それなら、答えは決まった。
「やる」 (ノベライズpp.148~149より)


 ここに、マツリさんのマツリさんたる所以があります。彼女は、発せられた助けの声を無視することができないのです。自分が音楽に興味があるから、ファーブの音楽に可能性を感じたから、自分なら力になれるから、ユニットに参加するのではありません。「妹たち」は自分がいないと転ぶから、です。そこには、必ずしも前向きな要素はありません。才能と才能の出会いみたいな、ドラマチックな場面でもありません。妹たちの「お守り」としてマツリさんはやって来たのです。
しかしその後、彼女は自らに課したその責務を失敗してしまいます。ファーブはメンバーを思って曲を作ったのですが、それは結果としてメンバーを裏切るものでした。ムラサキは激昂し、ファーブは絶望する。ユメノは狼狽えて涙を流しますが、マツリさんは一連の出来事を眺めていただけでした。


もし、自分がナナスタに居る他の年長組のように頼りになったり、頭がよかったりすれば、あの場を丸く収めることができていたかもしれない。
支配人やコニーだったら、こんなことになる前に色々と察知して動けていたのかもしれない。
けれど、そうできなかったのは自分の落ち度だと思っていた。
(なーにが、お姉さんだよ……ったく……)
ただ傍観していただけで、年上らしいことなんてしていないではないか。
やはり、現実はゲームのようには上手くいかない。
「いや、本当……ままならないね」
だれに言うわけでもなく、マツリはつぶやくと――。
どうにも手のかかる妹分、ふたりのことを思い浮かべた。 (ノベライズp.240より)


注しておきたいのですが、マツリさんはただ無力さを嘆くだけでは終わりません。上にあるように、駄目であれば、次にどう動くかをすぐに検討します。周到な準備とは無縁ですし、臨機応変に対応する器用さも持ち合わせていませんが、しかしその一方で、失敗からのリカバリーは人一倍早いのです。おそらくそれがマツリさんの長所、というより性分です。
しかし、彼女は鈍感というわけでもありません。人並みに、時には人より傷ついて、それでも立ち上がるのです。
実際ノベライズでも、この後でムラサキに「説教」をしに行く際には、アルコールを入れて――とはいえめちゃくちゃ弱いらしく、ビール1杯ですが――臨まなければなりませんでした。言うまでもなく、ムラサキは未成年です。
ふつう、「未成年に酔っ払いが説教をする」という姿に威厳の欠片も無いと思うのは、私だけではないしょう。それなのに、そんなマツリさんの姿がこれ以上なく愛おしいのは何故でしょうか。
単行本には収録されていないこの「説教」の場面の挿絵として、Ez Barのカウンターに、ムラサキとマツリさんが並んで腰かけている風景があります。2人は背を向けていて、こちらからは表情を読み取れません。普段から大人びているムラサキは、足を組んだりして、一層雰囲気が出ているのですが、その一方でマツリさんは、酔いのためか背中を丸めていて、いっそう身体が小さく見えます。事情を知らない人が見たら、ムラサキがマツリさんを慰めているように見えるかもしれません。

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コンプティーク2017年3月号

「ユメノには言っておくから……ユメノのギターとアタシのドラムと一緒に、その歌でファーブの肩……軽くしてあげようよ」
自分のドラムじゃ力不足だろうと、マツリはそういう本音を呑みこんで、ムラサキへと優しく告げた。
そして、ムラサキはそんなマツリの本音を察することはできなかったのだけれども、なにかあっても、自分より大人であるマツリがなんとかしてくれそうな気がして――。
「わかったよ」
素直にうなずくことができた。 (ノベライズpp.275~276より)

 マツリさんはこの時ボロボロでした。自分の力不足を知り、それをアルコールで誤魔化し、嘘と自覚しながらも虚勢を張るしかありませんでした。
 でも、ムラサキはそれを「誤解」しました。マツリさんのことを、マツリさん以上に信じていたのです。
 ノベライズ支配人もそうでした。彼は、マツリさんはz分が思う以上に「お姉さん」なのだと伝えていました。


「マツリさん、ファーブたちのこと、頼んだよ」


それは支配人からマツリに向けられた――短く、強い、信頼の言葉だった。 (ノベライズp.288より)
 
 自分が思う以上に自分が魅力的だと言ってくれる人の存在は重要ですね。マツリさんがこういった、頼りにしてくれる人からの信頼を励みにしているのは間違いないでしょう。
 
ただ――ただ、私はここに、ある落ち着きのない感情があります。それは、ノベライズを通して、ゲームだけでは知ることのできない彼女の内面を、私が知ってしまったからです。もし知らないままであったなら、ノベライズ支配人がそうであるように、直感や信頼を理由にしてマツリさんを称えることができました。しかし、私は、ゲームでは決して見せない、したがって知りようがない、マツリさんの裏の葛藤を知ってしまったのです。マツリさんに、頼りにしている「お姉さん」ではなく、むしろ私を頼ってもらう「妹」として接したいという衝動を、小さくもってしまいました。
マツリさんが笑うたびにその裏を想像し、何か我慢をしているのではないかと考えてしまいます。しかし、私はそれを問うことはできません。それは、支配人に対する気遣いなのか年長者としてのプライドなのかはわかりませんが、その部分はおそらく彼女が見せたくないと思っているところだからです。だからマツリさんは、画面の向こうでいつも笑っています。もどかしさは、いつも私に付きまといます。
C
 私事ではあるのですが、今年、マツリさんと同じ年齢になったということが、このもどかしさを加速させました。いまや、私にとってマツリさんは、頼りがいのあるマネージメント対象のアイドルであると同時に、頼ってほしいという感情を無責任に抱く、ファンの対象でもあるのです。この2つの間を常に行ったり来たりしているのがいまの私なのです。
 マツリさんは何も変わっていないのに、私が色々なことを知ってしまったがために、変わってしまい、そのジレンマに一人で悩んでいます。
 もちろん、マツリさんだって、大きく変わった部分はあります。GS+カードで演奏することの歓びを叫ぶ姿には、かつての技術不足を悩む様子は見受けられません。ファーブだけでなく、彼女にとっても、QOPが自分を発信する場所の1つになったのだと思います。それは、単なる「お守り」からの脱却であり、飛翔です。

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 でも―心配性なのでしょうね、無理はしていないか、また抱え込んでないだろうかと考えてになってしまいます。期待と不安は、常に一体となって、私のなかに立ち現れてきます。彼女について何も知らないという思いが、いつまでも残ります。そしばらくはそれに向き合っていくことが私の応援の仕方なのかな、と最近は考えるようになりました。メモリアルライブが終わったら、色々あって、しばらく(2年くらい?)支配人業から離れるつもりですが、また戻った時には、それを乗り越えたとマツリさんに言えるようになれればいいなと思います。

ハルムスの話:私にとってハルムスってなんだっけ

ハルムスについて
                                   客野支配人

 疲れました。
 ハルムスの話です。
 
 私は春日部ハル×天堂寺ムスビ、つまりハルムスが好きです。
 しかし、これまではほとんど、読んで「はー無理尊い」と言うばかりで、自分から特に何かを発信するということはしませんでした。
 ですがつい最近、ハルムスの神として、平素より私が尊敬するお方のハルムス漫画を読ませていただき、その素晴らしさに衝撃を受けました。
 こんなにすごいものがあるなんて…!
 そして思いました。自分も書いてみたい。
 残念ながら絵は描けません。考察はしたくありません。音楽も作れません。となると、あとは小説しかないではないか!これ以上なく安直な理由で、私はハルムス小説を書こうとしたのでした。元々小説が好きというのはあったのですが、実際に書いたことはほとんどなく、未知への挑戦でした。
 
 しかし、いくつか書いて、私はびっくりしました。つまらない。嫌悪感さえ覚えるものがほとんどだったのです。
 アップして残しているものは一応許容できると判断したものなのですが、これではハルムスについて何も伝えられない…

 なぜつまらないのかというと、単純に私の技術の無さでした。「こういうシチュエーションいいよなあ…」の「いいよなあ…」を文章に落とし込めない。ぎこちないものになってしまう。表現は角ばり、会話は上滑り、展開は唐突。伝えたいことを伝えられない、自分の技術の無さを呪いました。

 しかし、ふと思いました。
 技術も大事だけど、それ以前に、自分はハルムスの良さというのをちゃんと認識できていないのではないか…?なんとなくぼんやりとしかわかっておらず、言語化できてないから、それを文字化することもできていないのではないか…?
 そのような仮定をして、自分に尋ねました。ハルムスのよさとは?

 …尊い

 だめだこりゃ。小説も失敗するはずだと思いました。技術云々の問題以前に、何を伝えたいのか自分でよくわかっていない。

 だから、小説を書く前にまず、自分が何を伝えたいのか整理してみることにしました。それが今回の主題です。ハルムスってなに?ハルの良さって?ムスビの良さって?
 人によってはこれを考察と呼ぶのかもしれませんが、私にとってはこれは単なる事実整理です。単なる事実整理ですが、整理するのは私なので、どうしてもそこに主観は入ってきます。それがたぶん伝えたいことなのです。
 どなたかが、「あ、それいいよね!そこ自分も推したいとこ!」と言ってくだされば嬉しいなあと思いながら、今回は書いてみることにします。

1、 私にとってのムスビ
さて、まずはハルとムスビ、それぞれについて考えたいと思います。
まずムスビですが、私にとっての彼女の魅力とは、「悩み続けるところ」です。
エピソード「ワン・ステップ・フォワード」を読めばわかると思いますが、ムスビは、自分にとってアイドルとはなんなのかを一生懸命考えています。
印象的なのは、劇中にも出てきた、焼きそばパンをめぐる場面。
大好きなはずの焼きそばパン。その大会なら、絶対に優勝したいと思うはず。それなのに、負けても悔しいと思えない。自分にとって焼きそばパンってなに…?
焼きそばパンに限った話ではありません。例えば、厳しい口調や態度。例えば、コンプレックスだった歌声。
「完璧超人」ではない「本当の自分」を構成していたはずの1つ1つの要素が、実は自分にとって、そんなに大したものではなかった。
答えだと思ったものは、実は新たな問いでしかなかったのです。それを彼女は、「自分だけスタートラインに取り残されたみたい」と表現します。自分は何物も見つけることができていないのだと。

しかし、エピソード「遠回りして、見つけたもの、大切なもの」においてムスビは、それを逆手にとって、「「本当の自分」とは、迷いながら答えを探すことだ」と考えます。つまり、「「問い」を作り続けること」こそが彼女にとっては「答え」なのです。
でも、16歳というまだまだ若い彼女は、その「答え」がどれほど難しく、厳しいものであるかを理解していなかったのです。
「「問い」を作り続けること」はエピソードでは「探究」という言葉になっていますが、その最終到達点として彼女が選んだのは、「パフォーマンスを完璧なものにする」というものでした。しかし、これはミスでした。確かに、「パフォーマンスが完璧である」というのは、1つの目標となりうるものです。しかし、「「問い」を作り続ける」という視点に立つならば、「パフォーマンスが完璧である」ということは、ゴールの1つの候補でしかありません。「パフォーマンスは完璧とは程遠いが、なぜか人を惹きつける」。これもまた1つの到達点としてあるはずなのです。
真に「探究」ということを目標にするならば、ゴールは「観客を感動させる」というエンターテイナーの条件のもとに、複数あるということを理解していなければならないのです。
しかし、ムスビはそれに気が付きませんでした。ひたすらトレーニングを重ねて、完璧なパフォーマンスができたら、それでゴールにたどり着けるのだと思い込んでしまいました。だから、それが誤りであると観客から突きつけられると、全く対応できなくなってしまったのです。
「探究」という言葉はそんなに甘いものではないのです。少なくとも、1つの「答え」に固執している人間では、達成はおろか、それを理解することさえできない。
「「探究」を達成するためにはこれ(例えばパフォーマンスを完璧にすること)をしたらいい」というのは転倒した発想です。「「探究」を達成するためには、ひたすら悩むべきだとは思うが、よくわからない」というほかありません。

エピソードでは、それが丁寧に語られます。アイドル部部長は「完璧なパフォーマンスを見たいわけではない、天堂寺ムスビを見たい」と言いますが、それはまさに「迷っている姿こそが「答え」である」と言いかえられます。また、「完璧なパフォーマンス」をしていたはずなのに、懸命に自分を応援してくれていたアイドル部部長が見えていなかったというのは、実はムスビのパフォーマンスは「完璧なパフォーマンス」ではなかったということであり、もし、本当の意味で「完璧なパフォーマンス」をしていたら、結果はどうなっていたか分からない、もしかしたら観客はウケたかもしれない、ということを示しています。安易に「悩むことこそが「答え」だ」と言わないこの部分は、エピソードの中でも味わい深い部分だと思います。

さて、エピソード「遠回り~」で、ムスビはこのようなことを完全に理解したのでしょうか?私はそうは思いません。きっとこれからも色んな「答え」に飛びついて、傷つくのだろうと思います。しかし、その姿こそが「答え」である可能性が今のところは1番高いわけです。
曖昧なところを、実践をもって進もうとする。その姿が私は好きなのです。

2、 ハルについて
春日部ハルは、私にとって不思議な存在です。
ぶっちゃけ、「推し」ではありません。私の推しはムスビ、レナ、マツリさんであり、その次、「推し」に近いところにハルが来ます。
したがって、ハル「だけ」を見た時にはどうしてもムスビより語る部分が少なくなり、また、ハルムスとの関連で語る部分も多くなります。そのような態度がよいものではないのは百も承知ですが、こればかりはどうしようもないのでご容赦願います。

私がハルを鮮烈に意識したのは、エピソード「ノッキン・オン・セブンス・ドア」です。その3話、「逃げ出した記憶」――といったらもうわかるとは思うのですが、グラビアについて語るところです。
自らの実力不足で歌やダンスの仕事が減る一方で、グラビアの仕事が増える。
グラビアを「恥ずかしい」という理由で忌避するアイドルはたくさん見てきましたが、そこまであけすけには言ってないにしても、明確に、性的な視線を意識して嫌悪感を示す二次元アイドルはほとんど記憶にありません。
身もふたもない話をすれば、多くの二次元美少女コンテンツは性的欲望と密接に関連しており、どうしても脱いだりエロいことをさせなければならないのですが、そこでキャラに明確な拒否反応を許してしまうと、その後のコンテンツ展開がやりにくいということなのでしょう。あくまで、「ちょっと恥ずかしいけど、仕事には前向き」でなければならないのです。
語弊を恐れずに言えば、ナナスタのアイドルも、大半がそうだと思います。
私は、そこは妥協するしかないところだと思いますし、あくまでそれはそれとして楽しめばいいなと思っています。私も、水着や、水着みたいな衣装を着た美少女大好きですし。
でも、だからこそハルの発言には驚いたのです。それがナナシスのエピソードの第一話ということもあって、ナナシスにハマるきっかけにもなりました。こう言わせたということは、この子には水着を着せないということか。そのチャレンジングな姿勢に、私は感銘を覚えたのです。

しかし、その後のナナシスの展開は、私の予想を完璧に裏切りました。
ハルのカード、水着がめちゃくちゃ多いのです。

Gだけでなく、Pカードでも水着があります。しかもけっこう大胆な。
かなり驚きました。え、なんでそんなことになってるの???

エピソードを読み返してみると、確かに、ハルが「グラビアの仕事が多くて云々」の話をしているのは、彼女の回想のなかです。支配人やコニーさんがその事情を知らず、水着の仕事をとってきて、ハルが悲しみを隠して仕事に臨むという話は成り立たなくはありません。プロ根性で作り上げた笑顔の下から時々ふっと見える絶望の影がなんとも妖艶で大人気、と言えるのかもしれません。
でも、それはちょっとどうなんだろう?と思います。それは確かにある種の魅力なのかもしれませんが、そんなにはっきり言ってしまえば「下衆な」話を、全年齢対象のアイドルゲームの主人公にやらせるのが、茂木さんの描きたかった物語なのでしょうか?

そうだとはどうしても思えない、いや、思いたくない私は、別の可能性を探りました。
つまり、「ハルがグラビアを嫌いになったのは、「性的視線」ではなく、別の理由ではないか。だから、それを乗り越えた今はグラビアに積極的に取り組めるのではないか」という可能性です。
その可能性を妄想したのが「ハルムスの二次創作です(やや原作をはみ出しているかも)・推敲」(http://kyakunon20.hatenadiary.jp/entry/2017/10/30/111124)でした。
以下に、簡単に内容を要約します。
当時色々なことがあって落ち込んでいたが、「グラビア」は「守ってくれるものがなく、自分がむきだしになった状態」になってしまうため、「落ち込んでる自分」を晒すことになってしまう。それは娯楽を求める客をがっかりさせることだし、自分も弱いところをいじられるようで嫌だ。だけど、自分に自信がある今なら、みんなを楽しませることができるから、そう悪いことではない。
自分で書いていて、かなり微妙だなと思います。そもそも、「グラビア自体はそれほど嫌じゃない」という前提に立たざるを得ないので、かなり夢見がちな話になってしまうのは避けられません。公式にうまい説明が出てくるのを望みます。

なんでここまでずっとグラビアの話をしたかというと、ハルが、こういうかなり辛い過去を過ごしてきたということが、現在に活かされていると思うからです。
エピソードの要所で、ハルは決断を下します。それは一見すると大胆だったり無謀だったりもするわけですが、それを思いつくのは、彼女に天性のアイドルの素質があるから(だけ)ではなく、どん底を知っているからこそではないかと思うのです。どん底というのを示す1つの例がグラビアというタブーに触れたことだと思うのです。
普段はぽわっとしていて、天然のような彼女が、実は色々と考えている。そう思ってエピソードを読むと、見方が違ってくる。それが深みかなと思います。

3、 ハルムスについて
さて、いよいよハルムスについて整理したいと思います。
繰り返しになりますが、私の、ハルとムスビの好きなところは、ハルが「辛い経験を現在に活かしている」こと、ムスビが「迷い続けていること」です。
この2人が出会うと、どういう反応が、魅力が生まれるのでしょうか。
大筋を言ってしまえば、それは「対立と葛藤」です。

ハルとムスビは、仲がいいです。ナナスタに入ったのは、ハルが1番目で、2番目がムスビ。3rdライブのハルカゼの前の、高田憂希さんの口上でも触れられ、キラチュナで1(ONE)がハル、12が(TWELVE)がムスビであることからわかるように、そして篠田みなみさんがハルとムスビを「夫婦」と称したように、隣で長く同じ時を過ごした2人は、その存在が当たり前すぎて重要性を普段は忘れてしまう「空気」みたいなものです。
お互いについて言及することはあまりありませんが、そのことがむしろ以心伝心を表しているみたいで最高。…たまにはわかりやすくイチャついてほしいなあも思いますけどね!
そんな2人だからこそ、対立すると目立ちます。エピソード4U「12・アングリー・アイドル」で、4Uと対決するリスクを心配し、対決するならその意味をちゃんと考えようと言うムスビに対して、ハルは意味なんて関係ないと言います。それはムスビに対して、はっきりと「違う」と言った瞬間でした。
なぜ2人の意見は違ったのでしょう?
ムスビが、対決する理由を、自分と4U以外に求めようとしたのに対し、ハルはあくまで自分と4Uのことを考えますが、その差を生んだのは、アイドルへの想いでした。
ムスビと違い、ハルにとって、アイドルを否定することは絶対的に間違いだったのです。それはハル自身の、アイドルへの強い想いです。
このエピソードでは、ムスビ以外の777のメンバーは基本的にハルと同意見ですが、冷静な判断をぶち壊してでも自分の意見を通そうとしたのはハルだけでした。彼女のアイドルへの想いは、人一倍強い。
それが、さんざん辛い目に合ってもそれでもなおもう1度アイドルになりたいと叫んだ、彼女の過去にあるのは明白です。
しかし、ムスビはハルの過去を(少なくともエピソード4Uの時点では)知らないと思います。いや、知っていても基本的には同じだと思いますが、ムスビは、なぜハルがそこまでアイドルにこだわるのか分からないのです。
つまり、天性ともいえる、アイドルへの強い強い志向がハルにはあるのです。ところが、ムスビにはそれがない。自分にとってアイドルはなんなのかがわからない。
一生懸命考えはするけれど、考えれば考えるほど、理詰めで考えようとすればするほど、フィーリング的な「言葉では言えないけど、なぜかとにかくアイドルが好き」というハルの考えとは離れていくのです。
ムスビは、アイドルに対して真摯でありたいと願っています。それは間違いではないでしょう。でも、それは、最初からアイドルという存在に憧れていたハルとは異なり、あくまで「本当の自分」を探す手段だったのです。
この意味において、ムスビはハルに対してアイドルとしての「引け目」を負わずにはいられないのです。
しかし、「引け目」は同時に、ハルが、自分がもつことができないものを持っているということを「尊敬する」心理とも言えます。
相手を疎ましく思う「引け目」と、近づきたいと思う「尊敬」という、相反する感情がムスビの中には渦巻いているのではないでしょうか。

では、ハルはどうでしょう。ハルはムスビのことを普通に好きとだけ思っているのでしょうか。そうではないような気がします。
ただ、今の私にはうまく思いつきません。今考えられる限界を書いてみますが、正直、いまいち説得力に欠けると思います。その理由も後述しますが、とりあえず正確な理解は今後の課題ということにして、書けることを書いてみます。

ムスビは、エピソードを読めば分かりますが、悩む時は基本的に全部曝け出して悩みます。問題にぶつかって、倒れたらまた起き上がる。その姿に私は魅了されるのだというのはすでに述べました。その「問題」の中には、彼女の悩みである「幼いころから周囲の期待に苦しんでいた」ということも含まれています。ムスビは過去と向き合い、答えを出そうとしているのです。
その一方で、ハルは、エピソード4Uについての記述でも書いたように、過去をあまり積極的には仲間に開示していないようです。彼女の中では、人に話すことができるほど、十分には苦しい過去を乗り越えることができていない。ムスビもそれは同じなのに、むしろ自分から自分の過去を暴露していく。その勇気は、ハルは持っていない。長く隣にいるムスビにさえ自分の過去を話せないことを、ハルは恥じている。
グラビアの話で言ったことを踏まえると、ハルは、仕事においては、辛い過去を活かせるほど強くなっています。ただ、それを人に話すことはできていない。
もちろん「仕事においては克服しているのに人には話せない」というだけでは、負い目とは言えません。他の誰かがその話を聞きたいと思っているのならまだしも、(ムスビのように)自分の問題解決のために自分の過去をわざわざ人に話す必要はないし、普通はそんなことを負い目と思いません。
ではなぜ負い目を感じるようになるかと言えば、ムスビの視線があるからです。既に言ったように、ムスビは、ハルの天性ともいえるアイドルへの強い思いを尊敬し、また、同時に疎んでいます。ハルの過去を知らないムスビの眼には、その思いは極めて純粋なものに映るでしょう。
しかし、実際はそんな純粋なものではありません。彼女は1度挫折し、その後でアイドルにまた戻ってきたからです。彼女の過去を知れば、純粋だと思い込んできたムスビの幻想は解ける。
ハルのアイドルへの思いは、「純粋」なものではないのに、彼女は「純粋」を装う。これが、ハルが過去をムスビに明らかにしないことによって、負い目を感じる理由です。

しかし、この考えには穴があります。既にムスビについて述べたように、ハルの過去を知ることは、ムスビが、ハルのアイドルへの思いに対して抱く気持ちを変えることにはなりません。ムスビが「引け目/尊敬」を感じるのは、「純粋」というところではなく、「天性」というところなのですから。むしろ、挫折したのにも関わらず諦めないという、「純粋」よりもさらに強い思いは、ムスビの、ハルへの思いを強くするものでしょう。
だったら、ハルはムスビに喋ってしまった方がいい。
これが、今のところ私が限界を感じていると思う理由です。

ただ、限界を破る道が、全く見えないわけではありません。
それは、ハルにとって、ムスビが幻想を抱いたままでいた方がいいという可能性です。
あまり細かくやってしまうと考察になってしまうので、簡単に述べるにとどめますが、要するに、「ハルが、ムスビは自分のことを「純粋」な存在として見ていてほしい、と思っている」という可能性です。
ハルのアイドル観にも深くかかわってくる話ですし、たぶん、これに答えを出すのが、私にとってのハルムスの到達点の1つだとは思うのですが、あまり公式にそういうことをにおわせる場面は無かったので、ここでは判断は保留しておきます。

ちなみに、このハルのムスビへの思いに決着をつけられないから、私が描くハルムスは基本的に、決着をひとまずつけたムスビの視点で書いています。いつかハルの視点でも書いてみたいですね。

4、 終わりに
最後に課題が見えたところで、今回の現状把握は概ね終わったということにしたいと思います。本当はスームスとかハルウメエモムスとか色々考えないといけないことはあると思うのですが、とりあえず、今の自分の手の届く範囲のものは、少し見やすくなったかなあと思います。
もう少し短くするつもりが、特にムスビについてうまく言葉をまとめられずふわっとした感じになってしまったのは反省点です。
ハルについても今後は勉強したいと思います。