三森マツリさんについての個人的所感

三森マツリという「不可解なもの」
「これは偶像の物語じゃなく人間の物語です」――茂木監督のQOPノベライズ帯より


 半年ほど前でしょうか。私はマツリさんを題材にした小説を書いたことがあります。語り手には自分自身を投影したゲームセンターの店員を置いて、彼から見てマツリさんがいかに不可解で、同時に魅力的かを描いた、小さな小さな短編でした。
 私には(当然)小説の巧拙なんてわからないのですが、個人的には今でもわりと気に入っています。特に何も考えずに書き始め、思いもしなかったところに着地したその小説の結末は、こちらからは何もコントロールできなかったのにも関わらず、不思議と違和感を覚えたなかったからです。やっぱり私にとってマツリさんはこういう人なんだなあという納得さえありました。私にとって三森マツリさんという人間は不可解な存在なのであって、おそらくそれは私の無意識においても変わらない。そう確信したことを覚えています。
 今から綴ろうとする妄言は、その「不可解さ」をいささか積極的に語ろうとするものですが、その基本的な構成は、その時書いた小説と同じです。ただ少し「不可解さ」にとどまってみようと提案している点が違うところでしょうか。とりとめのない文章ではありますが、しばしお付き合い頂ければ嬉しく思います。
A
 まずは、マツリさんの「不可解さ」について、それが具体的にはどういうことかを考えてみたいと思います。
 端的に言えば、マツリさんの「はじまり」が見えないことが、私にマツリさんを不可解にさせています。B(ブロンズ)カードを見るに、どうやらゲームセンターで支配人がマツリさんを発見してスカウトに踏み切ったというのがファーストコンタクトであるようですが、ただ、それはあくまで支配人目線で合って、何故彼女がアイドルになったのかは判然としません。

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 基本プロフィールを確認しておくと、マツリさんは10月9日生まれの21歳。所属はフリーターで、特技は「ゲームならなんでも」。生粋のゲームオタクであると同時に、多くの人の前でゲームパフォーマンスを行うことも好みます。面倒見のいい性格でもあるので、彼女を「姉さん」と慕う若者(子ども?)も少なくありません。

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以上のようなことはちょっと調べればすぐに分かるのですが、しかし、これ以上のことを知ろうとすると、手掛かりは一気に少なくなります。それは、マツリさんを応援し始めて丸2年が過ぎた私でもそうです。
 例えば、金銭事情も謎に包まれています。どうも一人暮らしをしているようなのですが、全ての生活費を本当にアルバイトだけで賄うことができているのでしょうか。アイドルは薄給・激務です。ゲームは決して安上がりな趣味ではありません。ふだんどういう生活をしているのでしょうか。
 

なんでそんな細かい点が気になるんだと思われるのかもしれませんが、こういう生活をしているのがマツリさんだけならば、私も特に気になりません。似たような境遇の子――雲巻モナカがいるから気になっているのです。

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 モナカは、フリーター、アルバイトの「先行きの不安定さ」が、マツリさんとは違い、性格として十分に成立しているのです。彼女は自分がなぜフリーターになったのかをしっかりと語り、生活や趣味、そして新しい何かを探すために、数々のバイト――時にはマグロ漁船にまで乗ります――を行います。この突き抜けたフロンティア精神は、モナカの大きな魅力となっています。

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対して、マツリさんはどうでしょうか。カード『制服撮影』の台詞から判断するに、どうやら高校までは出ているようなのですが、18歳からどのような変遷があって現在に至ったのかは全く不明です。また、「中学生」と揶揄されるために勘違いされることも多いのですが、マツリさんの考え方は、基本的には成熟した大人のそれです。抜けたところもあり、ミワコ先生やミミさんと比べるとやや頼りないのは事実(この点はまた後で触れます)ですが、若者をちゃんと諭すことができる立派な「お姉さん」です。しかし、いや、だからこそ彼女は私にとって「不可解」なのです。

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とりあえず年相応に(精神が)成長し、良くも悪くもモナカより「常識的な」思考ができるマツリさんが、なぜフリーター、そしてアイドルという不安定な道を選んだのでしょうか。もし仮に彼女が全てを投げうって自分の人生をゲームに欠けたかったと考えるとするならば、フリーターになるのはまだ分かるのですが、なぜアイドルというわき道に逸れたのでしょうか。パフォーマンスを見せたいなら、動画配信でも何でもあったでしょう。
 当然、このようなマツリさんの過去について詳しく掘り下げたエピソードは、私の見た限りでは存在しません。777☆SISTERSは言うまでもなく、Le☆S☆CaやCi+LUS、ユニットデビューしていない数人の子でもナナスタ加入時のことは振り返られているというのに、QOPはその類のエピソードがほとんど存在しないのです(ファーブはちょこっとあります)。特にマツリさんは、その異色の経歴に比べて、明らかになっている情報があまりにも少ないです。
 また、もう1つ不可解なところがあります。それは、支配人との会話にあります。この種のゲームの例にもれず、マツリさんも支配人に恋愛っぽいアプローチをかけてくることが少なからずあるのですが、そのアプローチは、マコトやスースほど徹底してもいなければ、スミレやキョーコほどの熱量もなく、からかい半分のようなものです。ミワコ先生やミミさんのような、「普段は余裕ありげで、ときどき弱みを見せる」という関係でもなく、常にそれっぽい隙を見せるけれど、実際は捉えどころがない印象を受けます。時々持ち出す「恋愛ゲーム」や「好感度」という言葉も、照れ隠しというより、自分のキャラクターを演じているような気がします。
 恋愛トークはあくまで一例ですが、それに限らず、仕事についても、マツリさんとの会話は、常に謎が伴います。ムスビやレナがそうであるようには、マツリさんは自分の弱みを見せてくれません。それが私には不安の種なのです。
あえて極端な言い方をすれば、マツリさんが本当は何を考えているのか、私にはわかりません。好きなゲームや、バイトのシフトは知っています。ステージ上の笑顔も、メイクアップ中の素顔も知っています。しかし、彼女が何を思ってアイドルになったのか、どこまでが計算でどこからが素なのか、彼女は大人なのか子どもなのか、私は知りません。飄々とした姿の裏には、何かが隠れているのでしょうか。

しかし、マツリさんを必要以上に神秘化する必要はありません。彼女はもっともっと泥臭い「人間」です。
そのことがよく分かるのがQOPのノベライズです。ここには、マツリさんだけでなく、QOPメンバー全員の内面が随所に描かれています。アイドルデビューと同じくらい、ユニットデビューもまた、ナナシスにおいては大きな位置を占めるのは周知の通りです。4人が、何を思ってthe Queen of PURPLEというユニットを結成したのか。ここからは、マツリさんのユニットデビュー、つまり「2度目のはじまり」に目を向けて、考えてみたいと思います。
B
QOPは不思議なユニットです。まず、曲調がアイドルっぽくない。次に、歌ってるのは4人のうち2人だけ。最後に、メモリアルライブに参加するのに新曲がない。…まあ、最後のは冗談ですが、何にせよナナスタのなかでは唯一無二の立ち位置を占めていることには違いないでしょう。
ユメノとマツリさんが歌わないということについては、発表当時から各所でちょっとした波乱を呼びました。今もその渦中にいると言っても過言ではないでしょう。「私の推しがああなるのは嫌だ」という言葉は、今なお私の心をわずかに揺らします。
QOPは、瀬戸ファーブのユニットなのです。ファーブが曲を作らなければ、そしてそれをナナスタに持ってこなければ、そもそも何も始まりませんでした。ですが、ファーブだけではユニットにはなりません。いくつかの偶然が絡んで、このユニットは存在しています。
したがって、ファーブにバランスが大きく傾いているというのがこのユニットの味であり意味なのですが、そこを解さずに、「歌う」という点だけに耳を奪われるのは、ややもったいない気がします。そういう点も確かに大事なんですけどね。実際、自分も3rdの歌唱サプライズでその場で崩れ落ちたので。
さて、そういう話はともかく、QOPが有する「偶然」のうち、その多くがマツリさんに由来していることは間違いないと思います。ファーブがナナスタでバンドを組もうと思った時に、ユメノとムラサキについては即決というか、ほとんど初めから決まっていました。しかし、「ナナスタにはドラムがいない」と悩んでいた時に、たまたまバイトの申し込みで通りかかったマツリさんが、たまたまゲームパフォーマンスでファーブのお眼鏡にかなって、加入することになったのでした。だから、他の子がユニットに加入する余地は十分にあったと思います。
とはいえ、なぜマツリさんが創造主である茂木さんの「偶然」に選ばれたのかは、よく分かりませんし、考えてもしょうがないことです。重要なのは、与えられた偶然の機会をマツリさんが拾い上げたということです。彼女は、自分が音楽の素人であることを理解したうえで、ファーブに手を差し伸べたのでした。


(そうそう、アタシはお姉さんなんだから)
ことを彼女たちの運命に任せたり、他のだれかに任せてしまってもいいのだけれども、ここまで事情を聞いて「あ、そう。がんばってね」と簡単にさじは投げられない。
自分が面倒見てやらなければ、絶対どこかで転ぶ。
そんな3人の姿なんて見たくない!
それなら、答えは決まった。
「やる」 (ノベライズpp.148~149より)


 ここに、マツリさんのマツリさんたる所以があります。彼女は、発せられた助けの声を無視することができないのです。自分が音楽に興味があるから、ファーブの音楽に可能性を感じたから、自分なら力になれるから、ユニットに参加するのではありません。「妹たち」は自分がいないと転ぶから、です。そこには、必ずしも前向きな要素はありません。才能と才能の出会いみたいな、ドラマチックな場面でもありません。妹たちの「お守り」としてマツリさんはやって来たのです。
しかしその後、彼女は自らに課したその責務を失敗してしまいます。ファーブはメンバーを思って曲を作ったのですが、それは結果としてメンバーを裏切るものでした。ムラサキは激昂し、ファーブは絶望する。ユメノは狼狽えて涙を流しますが、マツリさんは一連の出来事を眺めていただけでした。


もし、自分がナナスタに居る他の年長組のように頼りになったり、頭がよかったりすれば、あの場を丸く収めることができていたかもしれない。
支配人やコニーだったら、こんなことになる前に色々と察知して動けていたのかもしれない。
けれど、そうできなかったのは自分の落ち度だと思っていた。
(なーにが、お姉さんだよ……ったく……)
ただ傍観していただけで、年上らしいことなんてしていないではないか。
やはり、現実はゲームのようには上手くいかない。
「いや、本当……ままならないね」
だれに言うわけでもなく、マツリはつぶやくと――。
どうにも手のかかる妹分、ふたりのことを思い浮かべた。 (ノベライズp.240より)


注しておきたいのですが、マツリさんはただ無力さを嘆くだけでは終わりません。上にあるように、駄目であれば、次にどう動くかをすぐに検討します。周到な準備とは無縁ですし、臨機応変に対応する器用さも持ち合わせていませんが、しかしその一方で、失敗からのリカバリーは人一倍早いのです。おそらくそれがマツリさんの長所、というより性分です。
しかし、彼女は鈍感というわけでもありません。人並みに、時には人より傷ついて、それでも立ち上がるのです。
実際ノベライズでも、この後でムラサキに「説教」をしに行く際には、アルコールを入れて――とはいえめちゃくちゃ弱いらしく、ビール1杯ですが――臨まなければなりませんでした。言うまでもなく、ムラサキは未成年です。
ふつう、「未成年に酔っ払いが説教をする」という姿に威厳の欠片も無いと思うのは、私だけではないしょう。それなのに、そんなマツリさんの姿がこれ以上なく愛おしいのは何故でしょうか。
単行本には収録されていないこの「説教」の場面の挿絵として、Ez Barのカウンターに、ムラサキとマツリさんが並んで腰かけている風景があります。2人は背を向けていて、こちらからは表情を読み取れません。普段から大人びているムラサキは、足を組んだりして、一層雰囲気が出ているのですが、その一方でマツリさんは、酔いのためか背中を丸めていて、いっそう身体が小さく見えます。事情を知らない人が見たら、ムラサキがマツリさんを慰めているように見えるかもしれません。

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コンプティーク2017年3月号

「ユメノには言っておくから……ユメノのギターとアタシのドラムと一緒に、その歌でファーブの肩……軽くしてあげようよ」
自分のドラムじゃ力不足だろうと、マツリはそういう本音を呑みこんで、ムラサキへと優しく告げた。
そして、ムラサキはそんなマツリの本音を察することはできなかったのだけれども、なにかあっても、自分より大人であるマツリがなんとかしてくれそうな気がして――。
「わかったよ」
素直にうなずくことができた。 (ノベライズpp.275~276より)

 マツリさんはこの時ボロボロでした。自分の力不足を知り、それをアルコールで誤魔化し、嘘と自覚しながらも虚勢を張るしかありませんでした。
 でも、ムラサキはそれを「誤解」しました。マツリさんのことを、マツリさん以上に信じていたのです。
 ノベライズ支配人もそうでした。彼は、マツリさんはz分が思う以上に「お姉さん」なのだと伝えていました。


「マツリさん、ファーブたちのこと、頼んだよ」


それは支配人からマツリに向けられた――短く、強い、信頼の言葉だった。 (ノベライズp.288より)
 
 自分が思う以上に自分が魅力的だと言ってくれる人の存在は重要ですね。マツリさんがこういった、頼りにしてくれる人からの信頼を励みにしているのは間違いないでしょう。
 
ただ――ただ、私はここに、ある落ち着きのない感情があります。それは、ノベライズを通して、ゲームだけでは知ることのできない彼女の内面を、私が知ってしまったからです。もし知らないままであったなら、ノベライズ支配人がそうであるように、直感や信頼を理由にしてマツリさんを称えることができました。しかし、私は、ゲームでは決して見せない、したがって知りようがない、マツリさんの裏の葛藤を知ってしまったのです。マツリさんに、頼りにしている「お姉さん」ではなく、むしろ私を頼ってもらう「妹」として接したいという衝動を、小さくもってしまいました。
マツリさんが笑うたびにその裏を想像し、何か我慢をしているのではないかと考えてしまいます。しかし、私はそれを問うことはできません。それは、支配人に対する気遣いなのか年長者としてのプライドなのかはわかりませんが、その部分はおそらく彼女が見せたくないと思っているところだからです。だからマツリさんは、画面の向こうでいつも笑っています。もどかしさは、いつも私に付きまといます。
C
 私事ではあるのですが、今年、マツリさんと同じ年齢になったということが、このもどかしさを加速させました。いまや、私にとってマツリさんは、頼りがいのあるマネージメント対象のアイドルであると同時に、頼ってほしいという感情を無責任に抱く、ファンの対象でもあるのです。この2つの間を常に行ったり来たりしているのがいまの私なのです。
 マツリさんは何も変わっていないのに、私が色々なことを知ってしまったがために、変わってしまい、そのジレンマに一人で悩んでいます。
 もちろん、マツリさんだって、大きく変わった部分はあります。GS+カードで演奏することの歓びを叫ぶ姿には、かつての技術不足を悩む様子は見受けられません。ファーブだけでなく、彼女にとっても、QOPが自分を発信する場所の1つになったのだと思います。それは、単なる「お守り」からの脱却であり、飛翔です。

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 でも―心配性なのでしょうね、無理はしていないか、また抱え込んでないだろうかと考えてになってしまいます。期待と不安は、常に一体となって、私のなかに立ち現れてきます。彼女について何も知らないという思いが、いつまでも残ります。そしばらくはそれに向き合っていくことが私の応援の仕方なのかな、と最近は考えるようになりました。メモリアルライブが終わったら、色々あって、しばらく(2年くらい?)支配人業から離れるつもりですが、また戻った時には、それを乗り越えたとマツリさんに言えるようになれればいいなと思います。